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見ないふり、知らないふり。

息子は、小さいころから、
相手の気持ちをおもんばかって、
「見て見ないふり」が、出来る子だった。

それはわたしが、そうしなさいと教えたことはない。

昔付き合っていた人が、何かのアレルギーで、
顔の風貌が変わってしまうくらいに腫れあがって、
ちょっと治まってから、わたしの家に来た。

息子はもちろん、顔見知りで、何度も一緒に食事をしている。

わたしは、電話で、顔が腫れちゃってさ、と聞いていたが、
実際に見て見たら、笑い事ではすまないくらい、
別人のようになっていた。

その顔を見た時、息子はビクッとして、
さっと目をそらして、見なかったことにした。
また黙って、漫画の続きを読み始めた。

よその子供たちは、ちょっと変わった人がいたりすると、
「ねえねえお母さん、あのひと、なんであんななの~?」と
平気で残酷なことを言うものだが、
息子は、そういうことを、言わない子で、
大人の事情で、見てはいけないものについては、
絶対に口出しをしなかった。



その後、別に付き合い始めた人が逮捕されて、
わたしの周辺が慌ただしくなり、
身元引受人になっていたので、
東京地検に押収されていた荷物が、
全部わたしのところに送られてくることになった。

地検の検事さんに尋ねたら、段ボール15箱だと言う。

いやいや、その量を、どうするんだよ、と思った。
仲間の人が、預かろうか?と言ってもくれたが、
刑期が長く、仕事柄、よそ様のものを沢山預かっている人だったので、
これは一度、荷物を全部見て、
返せるものはお返ししないと、
先方さんもお困りだろう、と思い、
とにかく、受け入れることにした。


当時住んでいたのは2LDKのアパートだったが、
一室は完全に、クラフトの仕事と教室になっていて、
その部屋にもけっこうな荷物が滞積されていたので、もう置けない。

LDK部分は、食器棚をパーテーションとして、
キッチンとダイニングにして使っていた。

もう一つの部屋で、わたしは息子のベッドの下で寝ていた。
この部屋の押入れに入れられるものは入れて、
入らないものは、リビング部分に積み上げておくしか、
もうどうしようもなかった。


15箱の段ボールをすべて開けて、
まとめられるものはまとめて、封筒を捨てて、
お返ししないとまずいだろうな、というものは、
わかる範囲でガンガン返送した。

後はぎゅうぎゅうに詰め込んで、11箱にまで減らした。

息子はその時高校を卒業して、
あどけない顔にスーツを着てネクタイを締めて働きに行っていたが、
帰って来て、リビングに大量の段ボールが積まれているのを見ても、
何も言わなかった。
一言も、尋ねられなかった。
これなに? これどうしたの?と、
彼は言って来なかったのである。


やがてその人を捨てて、今の夫と再婚することを決めて、
息子に話したら、ちょうどいいね、僕も一人で暮らすよ、と
さわやかに話がまとまった。

わたしの結婚は、仕事の関係で5月だったが、
息子は3月に独立して行った。

お腹にいた期間を含めて、24年間、一緒だった息子と、
とうとう離れる時が来た。

わたしも再婚するんだし、
息子は小学生の頃から、
高校を出たら一人暮らしをする、と言って来た子なので、
喜ばしいことなのだが、
既にうつ病を発症していたわたしは、
息子との別れが辛くて寂しくて悲しくて、
時々、泣きすぎて、発作を起こした。

「ごめん、喜ばしいことだけど、やっぱり寂しいから泣いてるだけ、
気にしないで。」と途切れ途切れに息子に伝えて、
リビングで、タオルケットを頭からかぶって大泣きした。


そんな時、息子は、いつもちゃんと決まった時間に寝る子だったのだが、
一緒の部屋で寝ていたので、
明かりをつけたままで、部屋の扉も開けたままで、
寝ていてくれた。

何も言葉はかけてくれないが、
わたしを受け入れてくれている、証しとして、
明かりも消さず、扉も閉めずに、寝ていてくれたのだ。

何にも言わなかった。お互いに。


息子は、自分が初めて一人暮らしをする部屋を、
自分で選んで決めて来たのだが、
家具と、必需品と、インテリアと、配置を、全部任せる、と言ってくれた。
わたしが、「え…いいの?」と聞くと、
「うん。やりたいでしょ?」と言った。

そうなのだ。
わたしが泣いているのを見て、彼はわたしに、
喜びと楽しみを与えてくれたのだ。
わたしのセンスに任せると言ってくれたのだ。

二人で新しい部屋に行って、細かく採寸し、
わたしは10分の1の間取り図面を起こして、
どこに何を置くかを決めて、そのサイズも決めて、
ここの家具は重要だからディノスで、
ここらへんはニトリで、
カーテンはセシールで、
インテリア雑貨は東急ハンズで、と決めて、
タオルの一枚まで、わたしが選んで買い揃えた。

クローゼットの中も綿密に採寸して、
収納ボックスを組み合わせてきっちり入るようにした。


息子は、小学生の時に買ったデスクを持って行くと言った。
小学生に上がるとき、
キャラクターの学習デスクは、大きくなったら使いにくくて、
捨てる羽目になるから、
ずっと使える大人の机にしよう、と言って、
コクヨの、木製のいいデスクを買ったのだ。
天板が木目の見えるオフホワイトで、引き出しが黒という、
すごく大人っぽいものにした。
それに合わせて、ライトや本立ても黒に揃えた。

息子は「大人の机~。」と喜んでいてくれた。

結婚したらさすがに捨てるだろうと思っていたが、
息子は、なんとまだそのデスクを、使っているのだ。


わたしが考えた家具の配置を息子も気に入り、
二人で一緒にキッチン用品や、インテリア用品を買った。
楽しかった。

引っ越しには、友達が3人と、夫が来てくれて、
2班に分かれて作業をして、夫が車で運搬してくれた。



今回、お嫁ちゃんが調子を崩して、
わたしが、ものすごい心配をしていることを、
息子は理解している。
大げさにわたしは心配しすぎているのだと思う。

けれど、息子は、お嫁ちゃんとぴったり一緒に過ごしながら、
多分、彼女がトイレに行っている隙とかに、
ささっと、短いメールを、毎日くれている。

お嫁ちゃんをいたわり、守り、
その一方で、心配しすぎているわたしへの配慮も、
ちゃんとしてくれているのだ。

わたしは、心配しすぎて泣いたとか、頓服飲んだとかは、
もちろん、言ってない。
けれど、きっと息子の中には、タオルケットを頭からかぶって、
号泣しているわたしの姿があるのだと思う。

心配が少なくなるよう、ちゃんとメールをくれている。
幸い、土日でリフレッシュ出来て、
お嫁ちゃんは、落ち着いてきたようだ。
まだ楽観はできないけれども、一山超えたかな?という感じはある。

頑張ったね、息子。
そして、わたしへの配慮も、ありがとう。

お嫁ちゃん第一で、大切にし、守ってる姿も素晴らしいが、
その一方で、わたしに対しても優しく配慮してくれて、
嬉しかった。


わたしも、息子から聞いたこと以上の部分には、
踏み込まない。

見て見ないふり、知ってて知らないふりは、
大人として、とてもとても、必要なことなのだ。

                                         伽羅moon3






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