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どうしても欲しかった。

金曜日には無事に精神科に通院できた。

即効性のある強い頓服をもらったのに、
ちゃんと、目の届く場所に置いておいたのに、
2回続けて、失くした。

薬をためてるって疑われたらどうしよう、と思いながらも、
実はまた失くしてしまいまして、
ゴミ箱に落として捨ててしまったかもしれないんですが、と
お願いしたら、
ドクターは、笑いながら、「どの家にもブラックホールがあるんですよ。」と
そう言ってまた処方してくださった。

今度は絶対なくさない。

急いで帰って来て、シャワーして、ムギに会いに行ったが、
ムギは留守で、呼んでも帰って来なかった。
でも、夜中に行ったときは、小屋に入っていて、
喜んで出て来て、脚に乗ってくれて、ゆっくり過ごせた。


過食でめちゃくちゃ太り、
お気に入りだった水色のダウンコートが着れなくなり、
もう一着持っているのは、オークションで買った、
暖かそうに見えるのに、実は寒いアンゴラ混のコート。

だからどうしても、暖かい、ちゃんとしたダウンコートが欲しかった。
長く着るから、ちゃんとしたいいものが欲しかった。

でも、自分で数万円を出す勇気がない。

それで夫にねだったのだ。

土曜日に、美容院が16時に終わるので、そのあと、
用事を終えた夫と合流して、一緒に見てもらう予定にしてあった。

でも、あまり長く付き合わせるのも悪いと思って、
二つある駅ビルの内、一つのビル内のテナントの下見は、
美容院に行く前に、終えておいた。

コートの中でもダウンコートは、今から本格的に売れて行くらしく、
どのテナントでも、「昨日入荷したんですよ。」言っていて、
種類も多かったし、LLサイズを置いている店もあった。

まずは、もちろん、着られることが大前提だが、
着られれば何でもいいとは思えず、
背が低いから長すぎるのは駄目だし、
色も、黒や紺やグレーは嫌だし、
実物、かなり太っているので、これ以上太って見えるのも嫌だし、
人があまり着ていない色合いで、
着ぶくれしないものが、どうしても欲しかった。

テナント、全部回った。
どの店にもダウンコートは入荷していて、
どうかな、と思うものも、一応、羽織らせてもらった。

しかし、お腹の部分のボタンが閉まらないとか、
全身を締め上げられているみたいに苦しいとか、
着れるんだけど、アームホールが細くて腕があげられないとか、
デザインは素敵なのに、黒と紺しかないとか。

結局、そっちの駅ビルのテナントでは、
いいかも、と思えるものは、一着もないまま、
時間切れになって、美容院に行った。

あとは、紳士服の大きいサイズを扱っている店のレディスコーナーを見て、
さっき行った駅ビルの、テナントじゃない直営部分の、
大きいサイズコーナーを見て、
そこになかったら、もう一つの駅ビルで、13号を扱ってる店を、
事前にチエックしてあったので、
そっちに回ろう、と思っていた。

もしそれでも、気に入るものがなかったら、
新宿の京王デパートに行くつもりだった。
京王は、もう10年以上前に、
ミセスに特化した百貨店に切り替えて、成功を果たしている。
電話して確認したら、確かにそうでございます、
大きいサイズのコーナーは4階の半分くらいの面積があり、
直営部分とテナント数店がございます、ってことだった。


紳士服の店には全然いい物がなく、事前に見れなかった、
駅ビルの直営の大きいサイズコーナーに行ってみた。

黒とベージュしかない。
うーん。
もし着られるとしても、喜びが湧かないなあと思いながら、
大きいサイズコーナーの隣のラックに近寄った。

そこは、テナントでもなく、直営でもなく、
不思議な空間で、
ハンガーラック4台のみで、オバチャンが、商売をしているのだ。

その存在は知っていたが、しっかり見たことはなかった。
ミセス向けの商品ばかりだ。
すると、オバチャン、わたしをさっきから観察していたのだろう、
「ダウン探してるんでしょ、これならあなた、入るわよ。」と
一着のコートを取り出した。

それは、くすんだピンクと薄い紫の中間のような色合いで、
生まれてこのかた、着たことがない色だ。
しかも、もうさんざん試着して来たから、
こういうホンワカした色で自分が膨張して見えるのはわかっている。
「こういう色はちょっと…。」と言うと、
「わかった! あなたにはこれ! もう、これしかないわ!」
と、偉い勢いで、もう一着を出した。

それは、光沢のある素材で、色は青みの強い深緑。
取り外しができるフードと、
取り外しができるフードのファーが付いていた。

まずは、この体が入るのかどうかが先決なので、
オバチャンの勢いに任せて、羽織ってみた。

…着られる。

ファスナーを全部閉めて、ホックも全部止められる。
しゃがんでみたが、苦しくない。
あれれ?

胴体部分には、斜めにステッチが入っていて、
実はそんなに絞っていないのに、
ウェストを絞ったように見える、かすかなAライン。

腕が超短いわたしだが、見えない裏地にゴムが入っていて、
袖丈もちょうど良くて、しかも風が入らない仕組みだ。

何よりも、ダウンの量が多すぎないのか、
全然、着ぶくれしない。
むしろ、太ってることをごまかせるデザインなのだ。

オバチャンはヒートアップして、
「ね、ほらね、すごい似合う! 楽でしょ。これ、値下げして、今18,000円なのよ。」

わたしは袖にぶら下がっているタグを読んだ。
ダウン80%、フェザー20%、表地・裏地はポリエステルで、
表面には撥水加工をしてある。

どの店でも見たことのない、珍しい深緑色。

色違いで、紫もあったので、それも着てみたいと言うと、
オバチャンは、あなたにはそっちなのよねえ~と言いながら、
紫を持ってきてくれた。

着替えてみると、一気に顔色がくすんだのが見てわかった。
ホントだ…。
さっきの青い深緑のほうが、似合うんだ…。

わたしは、もう、これに決めようと思った。
なんらかの理由で安いのだ。
どこかがB級か、サンプル品で量産されなかったか、
去年とか一昨年の品だとか、
何か理由があって安いのだろうが、
ちゃんとダウンとフェザーが入った、正真正銘のダウンコートなのだ。

「もうすぐスポンサーが来るんです。」と言ったら、
オバチャンはコートを脱がせて、
「じゃあこれ、もう取り置きしちゃうわね、一着しかないし、
フッと売れちゃうことがあるから。」

夫からは、もうすぐ着きますとメールが来ていた。

わたしが見るともなしにセーターとかを眺めていると、
そのオバチャン、なんと、
コートを買う、と言っているわたしに、
違うコートを、勧めて来た!
えええ?

それは、去年ちょっと流行った、昭和レトロっぽい、
ざっくりしたツイードのコートだった。

去年、そういうアンティーク調のウールのコートを、
ショーウィンドウで見て、すごく素敵で、
昭和レトロだなあ、と思って、
そのテナントに行ってみたのだ。

確かにすごく好きな雰囲気だったが、
まず、値段が69,000円もした時点でアウト。
素敵だなあと思っていた、そういう雰囲気のコートを、
オバチャンが出して来たのだ。

去年は、息子の家に遊びに行ったときに、
お嫁ちゃんが、ちょうどそういう、昭和レトロっぽいコートを持っていて、
すごく素敵で、似合ってた。
そうだよねえ、あれは、若い子が着るからこそ、アンティークな感じがして、
素敵に見えるのであって、
本物の昭和のオバサンが着たら、
単なる、古ぼけた薄汚い格好に見えちゃうんだろうなって、
諦めたのだ。

なので、いや、オバサンにこれは無理じゃ?と言ったら、
「いいじゃないの、羽織ってみなさいよ。」と言うので、
羽織ってみた。

…一目惚れだよ…。

何で?
全然オバサンっぽくはならないのだ。
デザインは、大きなボタンが一つ真ん中についているだけの、
やや衿の大きく開いた、チェスターコート。
色は茶系だがヘンリーボーン柄に、こげ茶のボーダーライン、
細いワインレッドのストライプが入った、
複雑なツイードだ。

オバチャンが、赤いマフラーを持ってきて、襟元にかけた。
すごく見栄えがする!
ああ、これ、欲しいよ…。

値札を見たら、二回値下げされてあって、
シールが二枚重ねて貼ってあり、14,000円になっていた。

ダウンコートに、きっと5万くらいかかると思ってたので、
ここなら、両方買っても35,000円以内だ。

「旦那さんに、お願いしてみなよ、すごく似合ってる。
赤いストールがあれば完璧!」

このオバチャン、ただ者ではないな、と感服した。

わたしも、物を売る仕事をしていたから、わかるのだ。
まずは、お客さんの目線を忠実に追うのだ。
何を探してるのか、予算をどれくらい持ってるかが、
だんだん分かるようになる。

安いから買うのであれば、ユニクロでもGUでもいい。
でもわたしは、個性的なものが欲しかった。
オバチャンはそれを見抜いていたし、
似合う色を見抜く力もちゃんと持っている。

その、昭和レトロのコートを着ているさなかに、
夫が合流した。

それで、いきさつを話した。
ダウンコートを着て見せて、どうかな、太ってるのがばれなくない?と
聞いてみたら、うんそうだね、という。

それでね、こっちのコートも、実は去年から欲しいタイプのもので、
14,000円なんだって。
だから、両方、欲しくなっちゃって…と、夫を見上げてみた。

そうしたら、夫が、すぐさま、「いいよ。」と
承諾してくれたのだ!

うああ、嬉しい!!

わたしが喜ぶと、オバチャンも、
「優しい旦那さんだねえ、良かったよ、似合うのがあって。
よそじゃ売ってないからね!」と、すぐにレジに誘導してくれた。

夫が、しぶしぶではなく、瞬時に理解をして、
さっと、「いいよ。」って言ってくれたことが、
本当に本当に嬉しくて、涙目になった。

嬉しいよ。本当に嬉しい。
着られるコートが見つかったこともだけど、
それよりも、甘えて、
それを許してくれて、いいよっていってもらえたことが、
ものすごく嬉しかったのだ。


しょっちゅう書くが、わたしには、貧乏の経験しかない。
親に、どうしても買って欲しいとねだったのは、
カセットテープレコーダーと、ヘッドホンだけなのだ。
何にも買ってもらったことがないのだ。

それは、断られるときの悲しさ、惨めさを、知り尽くしているからだ。
そんなもん、いらん、必要ない、と
切り捨てられて、買ってもらえなかった。

従姉のおさがりの服をもらい、
友達にリカちゃんを貸してもらい、
自分は、欲しいと言えずに、生きて来たのだ。


コートを持って帰って来て、ハンガーにかけて、
カーテンレールにつるした。

あちこち調べたり、触ったり、写真撮ったりした。

ダウンコートは、フードそのものも取り外せるし、
フードのファーだけを取り外すことも可能で、
開閉はファスナーとホックボタン。
一番上のボタンにだけ、ガンメタ色の四角い金具がついていて、
ちょっとした隠れアイテムみたいで、いい。
ななめに縫ったラインが綺麗で、痩せて見える。
アームホールもゆったりしているし、長さは膝上で、ちょうどいい。
撥水加工は、何回かクリーニングに出すと、効果はなくなるらしい。
ミャンマー製だった。
だから安いのね。

ツイードのチェスターコートは、ポリエステル80%にウールが20%で、
胸元が大きくあいているので、防寒用ではない。
でも、すごくおしゃれで、見とれてしまう。
ななめにポケットが付いていて、それもおしゃれ。
こっちは韓国製だった。

オバチャンは、赤いストールがいいと言ってた。
でも、ターコイズでも、ダルオレンジでも、ピッタリだ。
探そう。

余りにも嬉しくて、わたしはカーテンレールにコートを掛けたまま、
その下で眠った。
今もまだ、掛けてあって、飽きずに眺めている。

嬉しいなあ。
本当に嬉しいなあ。
どうしても欲しかったコート。


この間、夫のオマタに頭を突っ込んで号泣してから、
精神的に距離が縮まったような感じがする。

わたしは、こうして、確かに夫に守られて生きている。
再婚して、もうすぐ10年になるが、
ああ、結婚して良かったなあと、思えるようになった。

わたしにはきょうだいがいないので、わからないが、
やはり、一番話を共有できるのは、夫婦であるといいと思う。

今後、そう言う風になって行きたいと思っている。

                                            伽羅moon3


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