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少数精鋭。

若いころは、そんなに好きじゃなくても、
単なるお付き合いで、人とつるんでいたりしたけれど、
わたしは本当に、人間関係の失敗が多すぎて、
どれほど、人を傷つけたかわからない。

もちろん、こちらも苦しんでいるのだけれど。

仲が良くなって行くときは、嬉しくて、
わたしは馬鹿みたいにその人に心を開いてしまう。

すると、相手も同じようにして、
ずけずけとわたしに入り込んで来る。

すると、そこで、違和感や不快感を感じ始め、
耐えるのだが、耐えるにも限度があって、
わたしは逃げ出す。

そうやって、ずいぶんと失敗を延々、繰り返して来た。

仕事柄、付き合わなくてはならない相手なら仕方がないが、
そうでない限り、もう、交友関係を広げない覚悟で、
再婚して引っ越した。

誰もわたしのことを知らない街で暮らし、
誰とも挨拶を交わさなくて良くて、
わたしは、この街にひっそりなじんだ。

住み始めて9年になるが、
挨拶をするのは、夫の床屋さんと、
歯医者さんと、マッサージ屋さんと、
佐川急便のおじちゃんくらいだ。
増やしてない。

アクセサリー作りをしていた当時は、それなりに、
お客さまや、クリエイターの方たちと交流をしていたが、
躁鬱の、躁が終了して、作れなくなってからは、
誰とも連絡をしなくなった。

全部切り捨てて、
わたしのまわりに、今残っているのは、
わたしが生きて行く上で、どうしても、付き合っていたい人のみ。


美容師さんが、そのうちの一人。
まだ35歳なんだけれど、話がとても合う。
ツボが同じで、いつもずっと喋って、笑っている。
辛い時には泣かせてももらった。

再婚してここに来て、どこの美容院に行ったらいいかわからず、
再婚前に行っていたのと同じチエーン店に行った。
値段が明朗で、そんなに高くなかったからだ。

でも、鬱の状態がひどかったので、
わたしは誰とも話さず、雑誌も読めず、
ただ、ぼんやり座っていた。

そんなある日、まだ研修中の彼女と出会った。
ヘルプに入ってくれて、シャンプーをしてくれたのだ。
わたしは、心の中で、「おおお!」と叫んでいた。

素晴らしいシャンプーの技術を持っていたのだ。

美容院と言うところに通い始めて30年、
こんなにうまい、そして力強いシャンプーをしてくれる人は、
一人もいなかった。
求めていたのは、これなんだ!
わたしは感動して、彼女の名を尋ね、名刺をもらった。
初めてお客さんに名刺を渡した、と言っていた。

四十肩になって、もともと大嫌いだったシャンプーができなくなり、
わたしは彼女を指名して、シャンプーに通うようになった。
毎回、話がすごく楽しくて、
彼女が、スタイリストとして資格を取るのを見守った。

やがて、彼女が、違う店に移る、ということを、耳打ちしてくれた。
場所は、駅の反対側だという。
わたしは、「着いて行く。」と即答した。

引き抜いて来たお客さんは、前のサロンの値段でいいと、
言われていたそうで、
今もお値打ちにやってもらっている。

シャンプーの技術にほれ込んだのがきっかけではあったが、
今では、生きて行く中で、大切な人材なのである。
かけがえのない人なのだ。


そして、いつも指名しているマッサージ師さん。
華奢な女性で、綺麗な声で、
そして素晴らしい技術を持っている。

そのマッサージ屋さんが出来るまでは、60分6000円という、
高いマッサージに行っていたのだが、
「一番力の強い人をお願いします。」と頼んでやってもらっても、
わたしの強情な筋肉は、ことごとく指を拒み、
相手は力任せに揉むので、
翌日の揉み返しがひどく、楽になりにいったはずが、
ちっとも楽になれない日々だった。

そんな時、近所に安いマッサージ屋さんが出来て、
チェーン店でもないし、怪しくて、なかなか行けなかったのだが、
値段が半額だったので、行ってみた。

その頃はマッサージ師さんが数人待機してて、
最初は、おばあちゃんとおばちゃんの中間ぐらいの人に当たった。
全然、こっちの要望を聞いてくれなかった。

次は男性で、腕はまあまあだったが、なんというか、
真剣さが感じられないのだ。
通り一遍のことをやっときましたよ、みたいな冷たいムード。

次は、ガタイのいいメガネのオバチャン。
今のところ、この人が一番マシかなあ…。

6000円のところに行ったところで、楽になるわけではないので、
わたしはこの、3000円のマッサージに、
時々通った。

そして、次に出会ったのが、今、指名しているマッサージ師さんだった。
華奢な人で、
こんなんで、わたしのこの、「柔道家ですか?」と聞かれた筋肉を、
果たしてほぐせるのだろうか?と思った。

そしたら、その人は、すごく高い技術を持っていたのだ。
すごい!
この人だ!


指だけでなく、手のひらの「たなごごろ」という箇所や、
その細い肘を巧みにツボに命中させ、
体重をうまくかけて、骨と筋肉の隙間を離してくれる。

ところどころでは、完全に乗ってくれて、
その体重が、気持ちいい。

25年、マッサージに通っているが、
こんな技術を持った人はいなかった。

わたしは、次からは、その人を指名するようにし、
時間も、60分から90分に増やした。

物腰は柔らかく、声も綺麗で、技術は確か。
やっと出会えた、と思って通っていた。

ところが、一昨年くらいだったか、
店の雰囲気が非常に不穏になっていることに気づいた。
店長と言われるおっさんが、全然、仕事をしてないのだ。

来たと思ったら、外でタバコを吸い、外で電話をかけていて、
店の電話が鳴ると、施術中のマッサージ師さんが出なくてはならない。

ちょっとずつ、私語を交わすようになってきた頃だった。
頼んでも買ってくれないので、お客様用の眼鏡立てを自分で買ったんです、
スリッパだって、ひどいでしょう、と彼女は言っていた。

これは、まずい。
わたしは、この人を失いたくない。
もしも辞められてしまったら困る。

なので、次の予約の日に、小さい手紙を黙って手渡した。
「もしも、なんらかの事情で、辞めるとか、移るということがおきたら、
絶対に知らせてください。」
そう書いて、携帯の電話番号を書き添えておいた。

そして次の予約の時に、彼女から、メルアドを書いたメモをもらった。

とは言え、しょっちゅうメールし合う仲になったわけではないのだが、
去年の夏、わたしが胆石で入院したこと、
このあと手術を控えていることなどを話した。

病院についての見解が一致していて、
そうですよね、あの病院、やばいですよね。
転院して手術は正解だと思います!と言われた。
彼女も、わたしが手術を受けた病院に通っているそうなのだ。

入院の時にはね、着物の柄の本や、
江戸時代の風俗の本を持って行くの、と言ったら、
なんと彼女も、生粋の江戸好きだとわかり、
話が盛り上がって、
入院中、お見舞いに行く!と言い出したので、
それは固辞した。

けれど、そのことがきっかけで、本の貸し借りをしたり、
いろいろ雑談するようになったのだ。


彼女は、この店の店長を信用しておらず、
チェーン店であと2店舗あるそうなのだが、
違う店の社員として登録をしていて、
その店から、派遣で、ここに来ている、という契約だと言っていた。

本当は、本来の店に戻ろうと思ったのだが、
この街で、指名してくれる人が増えて、
実際のところ、彼女が稼ぎ頭であるし、
わたしが、病気で自転車に乗れないのも知っていて、
戻ることを、一度、踏みとどまってくれたことがあったそうだ。

けれど、今回、入っているビルの老朽化で取り壊しが決まり、
違うテナントに移転することになったのだが、
その際に、あの、働かない店長と、また何やら悶着があったらしい。

わたしは、
あなたの技術は素晴らしい。それを正当に認めてくれる場所で、
思い切り働いて、技術を発揮すべきだと思います、と
メールをした。


それが背中を押した形になったようで、契約をしている店に戻るそうだ。
遠くなるけれど、行けない距離ではないので、
わたしは彼女に着いて行く。

そして、彼女を失ったこっちの店は、
多分、すぐに潰れる。

彼女が、会って話を聞いて欲しいと言って来たので、
明日、お茶をすることになった。

彼女もまた、わたしの人生において、とても大切な人なのだ。
マッサージ師としての技量ももちろんだが、
その人柄に、わたしたちは癒されている。


こんなふうに、今、わたしが付き合っているのは、
人数は少ないけれど、
少数精鋭なのだ。
大切で、代わりのいない人なのだ。

そして出来れば、働いてもいないわたしが、
彼女たちの心に、なんらか、支えになれたらいいなと願う。
働けない。
でも、働いている人を応援することは出来る。

かつてわたしが、仕事に誇りを持ち、勉強を怠らなかったように、
今付き合いのある人たちは、向上心と、
思いやりにあふれた人なのである。

                                         伽羅moon3


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