« ちまの腎臓。 | トップページ | 覚悟せねば。 »

13センチ。

お姑さんが入院しているので、
日中に、母屋に入ることがしやすくなった。

お姑さんは動物的なカンの良さで、
いつもわたしの存在を嗅ぎ分けて、
ムギとひっそり過ごしていても、必ず邪魔しに来るので、
取りに行きたいものがあっても、
母屋には、入れずにいたのだ。

書斎のデスクの引き出しの中身を持ってきて、
全部整理した。
9割、要らないものだった。

和室のクローゼットからも、
息子のぬいぐるみや、縫ってくれたエプロンなどを、
持って来ることが出来た。

幼稚園に入って、初めて持って行ったお弁当箱も取ってあり、
その中の、桐の箱に、息子の乳歯がちゃんと保管されていたのを見つけて、
わたしは泣いた。
そうだよ、捨てるわけがないじゃないか。
たった一人の、命よりも大切な息子の、乳歯。

初めて使った手袋や、愛用していたサスペンダーも出て来た。

息子が一緒に寝ていた、「ももた」というぬいぐるみは、
今、わたしと一緒に寝ている。

そして、絶対に、靴もあるはずなのに、と思っていた。
息子の、ファーストシューズを、わたしが捨てるはずがない。
どこかにあると思うのだが、
クローゼットからは出て来なかった。

どこにあるんだろう。
もう一度見たい。触れたい。
手元に置いておきたい。

でも、どうしても思い出せず、探す先ももうないように思っていた。



今日、母屋では、夫と長女が、
母屋の巨大なシューズクローゼットの整理をしていた。
ずっと大家族で暮らして来た家庭なので、
下駄箱、というレベルではない。
大きな壁面のシューズクローゼットだ。

入れられる量がすごいので、歴代の靴がいっぱい入っており、
捨てるという選択肢を選んで来なかったようなのだ。

そこに、持ち主のわからない靴があるので、
キミのじゃないか、見に来て欲しいと夫から電話があり、
行ってみると、
すでに、捨てる靴は大袋に入っているようで、
残すか、捨てるか、しかも誰の靴なのか、というものが、
20足ほど並べられていた。

わたしには、見覚えのある靴が一足だけあった。
アシックスの、ウォーキング用の紐の靴だ。
アシックスの専門店で買った覚えがある。
まだ新品同様だったので、それを引き取ることにしたが、
他のは全部わたしの物ではなかった。

むしろなぜ、そのウォーキングシューズを残して引っ越したのか、
わからない。
歩きたくなかったのかな。
アパートに越すときは、土曜日に仕上げが終わり、
すぐさま翌日日曜日にとりあえず引っ越したので、
積み残しはいっぱいあった。

お姑さんが居ないあいだに、あと、どこに何を残してあるか、
だいたい把握できたので、良しとしている。

靴を一足抱えて、じゃあこれだけいただいて行きます、と
帰ろうとしたら、夫が、待って、もう一つ、と声をかけた。

何だろうと思ったら、
わたしの、息子の靴が入った箱が、一番下の段にあったよと、
見つけてくれたのだ。

あああ!
そうだったのか!

本当は、クローゼットで、ももたと一緒に保管したかったのだが、
靴だから、悪いかなと思って、
シューズクローゼットの、一番下に、
入れたのだと思う。
息子の名前がわたしの字で書いてあり、
赤ちゃんの時のくつ、と書かれていた。

箱を開けると、ファーストシューズと、
実際、歩くようになって履いた靴2足の、
合計3足が、入っていた。

初めて履いた、ちいちゃな白いふわふわの靴下も、入っていた。

こんなところにあったんだ…。

わたしは、人の引き出しを勝手に見たりすることは嫌いなので、
母屋のシューズクローゼットも、全く見る機会がなかった。

31年前の、息子の靴。

もっと小さいかと思ったけれど、
一年で思いのほか、赤ちゃんって大きくなるようで、
ファーストシューズは、13センチだった。
イエローオーカーの、伸縮性のある靴。
まだちゃんと歩けないときの靴。

そのあと、ほどなくして歩けるようになり、
買った靴が、ミキハウスの白地に赤と紺の靴と、
白黒のギンガムチエックで、ミッキーマウスが入っている、
ジッパーをあけて履く靴だった。

よく覚えているよ。
この靴を履いて、公園に行ったんだよね。
はっきり、覚えているよ。


部屋に持って帰って来て、ひとしきり触って、眺めて、
新しい箱に入れ替えて、
息子の物を保管している箱に、収納した。

誰も、分かち合える人がいなくて残念だけど、
息子が次に来たら、見せてあげよう。

こんなに、ちいちゃかったんだよ。

そしてわたしは、キミの思い出をこうして大切に、
持ちながら生きているんだよって、見せよう。


わたしの両親は、わたしに関するものは、一切持ってないと思う。
わたしに対して、思い入れがないのだ。
息子の写真は、わたしが写真立てに入れたのを持参したので、
無理くり飾ってはあるが、
わたしの写真なんてないし、何もかも全部捨てただろうと思う。

可愛い靴を手に入れられて、今夜はかなり幸せだ。
良かった、見つかって。捨てるわけがないもの。

大事な靴の宝物。

                                               伽羅moon3 いつもお読みくださり応援ありがとうございます。クリックお願いしますclover

|

« ちまの腎臓。 | トップページ | 覚悟せねば。 »