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いわゆる「木の芽時」。

わたしの実家は、田舎なのだが、
地形的な理由で、古くは関所があった土地である。

山ばかりで、平地が少なく、
そのわずかな平地に、昔の街道が通り、
鉄道・高速道路など、交通網が密集して通っている。

なので、大きな工場が、いくつかあった。
そこには、さらに地方から働きに来た若い人々が住み、
小さな町なのに、映画館も、ボーリング場もあった。

今は縮小の一途である。

町は、古くからあった農家の部落と、
移り住んで来た人のために開かれた新興住宅地があり、
わたしの家は後者。
たった43坪の宅地に建てたれた、町営の住宅。
2DKの平屋だった。

そこには、ちょっとおかしな家庭もあって、
みんなは差別用語で呼んでいた。
今みたいに、差別に対する評価が強くなかった頃だ。

春先になると、そこのうちは、荒れに荒れる。
母は、「木の芽時やからな。」と言った。

どうも、春になるときは、
精神が不安定になるらしいのだ。


わたしも今、その、「木の芽時」にやられている。

冬だと思っていたのだが、いつのまにか3月になっていた。
春先ではないか。

気分が優れず、不安定で、グラグラだ。
頓服を飲んでいる。

去年の今頃は、
ムギが浴室で、療養していた。

入院していたのは、二十日間だったが、
退院してから、心配でたまらずに、
わたしはムギをキャリーに入れて肩に背負って、
毎日、通院していた。

あれは、自分がおかしかったのではないか?と思う。

また、ムギのオシッコが止まったらどうしよう、
死んでしまうのではないか、
そんなに心配なら、自分が頑張って、
部屋に入れて一緒に暮らせばいいじゃないかと、
自分を責めて責めて、
毎晩、浴室で、ムギを抱いて、
大泣きしていた。

ムギが「えええ~?」と振り返って、ドン引きしていた。
それくらい、毎晩泣いていた。

ムギは入院中に、爪を思い切り短く切られ、
手術の予定だったので、お腹の毛もごっそり剃られたので、
3月の中旬を過ぎて、暖かくなるまで、
浴室に居させたのだ。

お腹が寒いし、爪が無いとなると、
襲われた時に不利だからだ。

ムギをお外に返したあとも、
わたしは心配でたまらず、
ムギに会えないとき、朝になるまで、
ムギを探して庭や近所を、ウロついていた。

幽霊のようだった。

完全に、おかしかった。

それが、「木の芽時」だったのだ。


昨日の夕方、ムギと会った時、
ムギは喜んで、「ママ、ママ!」と呼びながら、
ローリングしてくれてたのに、
暖かくなって、くっついている理由がなくなったのか、
40分も経たないうちに、出掛けてしまった。

夫が出かけていて留守だったようなので、
ムギが戻ってきたら食べられるように、
スペシャルミックスの餌を、小皿に入れて、
小屋に差し入れしておいた。

それで、夜中2時に、会いに行ったら、
ムギがいない。

いないばかりか、餌にはまったく手をつけておらず、
夕方から、一回も帰って来ていないことがわかった。

不安になり、何度も呼んで、待っていたが、
ムギは帰って来てくれなかった。

どうしたんだろう。
元気そうだったけれど、
何か、事情があるのだ。

夕方、手から数粒、シーバを食べただけなので、空腹なのに、
帰って来てないなんて。

わたしは家の裏や、アパートの東などを探した。

ムギ、もし、具合が悪いなら、
お願いだから、小屋で倒れててね。
よそんちのお庭で倒れないでね。

そう願いながら、捜索は打ち切って、
部屋に戻った。

でももう、おかしくなってしまって、
ちまのことも、うっとおしく感じる。
ちまが、「わたしにも何かちょうだいよ!」と鳴くのだが、
「今日はムギちゃんにあげてないから、ちまにもあげない!」
と叫んでしまった。

天使のちまちゃんが正妻で、
ムギは、小悪魔の愛人なのに、
ムギに会えないと、
わたしは精神不安定に陥る。

夫に、「ムギに会えたらメールください。」と送っておいたのに、
全然メールが来なくて、
朝、8時前に、「まだムギに会えないですか?」と
メールしてみたら、
「居ましたよ。」と写真付きで、返事が来た。

会えたのなら、その時点でメールして欲しかった。
寝付けずに待っていたのに。

そのメールを読んでから、やっと寝た。


夕方6時に、またムギに会いに行った。

ムギは留守だった。
ショック…。
いつも、6時になればいるのに。
呼んで待っていても、帰って来てはくれない。

絶望する。

過食も、影を潜めた。
ムギに会えなくて、不安定で、食べるどころじゃない。

待っていても帰って来ないので、
一時間したら、また来ようと思い、
一旦帰った。

自分の夕飯を作り、
夫のシャツにアイロンをかけて、
7時過ぎに、もう一回、行った。

小屋は空っぽ。

「ムギ…。」
おもわず声が出る。
すると、思いがけず、ムギから声を掛けてきてくれた!

ムギ、帰っていた!
車の横で、様子を伺っていたのだ。

ムギちゃん!

嬉しい!
やっと、やっと、会えたね!

ムギも喜んでくれた。

脚に乗って、体を拭き、ブラッシングして、
ツヤツヤになったムギを、いっぱい撫でる。

今夜は暖かいので、毛布を掛けずに、
ゆったりと撫でる。

ふっくらとした可愛いフォルム。
ふさふさの毛なみ。
しっとりと脚に乗っている重み。
すべてが愛おしい。

途中、降りて、おかかを要求。
今度はこちら向きに乗って、ゴロゴロ言う。

途中、わたしの脚に不安定に座ったまま、
ここでシーバを食べると言うので、
手から、シーバを食べた。

降りて軽くパトロールしてきて、また乗る。

一時間半、ゆっくり、一緒にいられた。

これくらい、くっついていると、
お互いに満たされるものを感じるよ。

ムギが大きく伸びをしたので、
お皿にシーバの残りを出すと、
観念して、ムギはわたしから降りた。


真冬は、小屋に入っていてくれる率が高かった。
しっかり防寒出来ていたからだと思う。

暖かい日が増えてきて、
小屋に入っている必要性が薄れると、
ムギに会える確率も、減っちゃうかな。
それは嫌だな。
なんとか、春夏にも居心地がいい空間を作れないかな。

去年の夏は、まだ、わたしは、警戒されて拒否されていたので、
あまり一緒に過ごせていない。

寄って来てくれるようになったのは、
8月になってからだ。
脚に寄り添って、アゴを脚に乗せてくれるようになって、
それがすごく嬉しかったなあ。


ムギに会えないでいると、
若い頃の、道に外れた恋を思い出す。
会いたいときに会うことはできず、
連絡の手段もなく、
ただただ、切なかった日々。

ちまという正妻がいながら、
ムギが小悪魔ちゃんばりに可愛いので、
浮気ばかりしているわたし。

今夜は会えるだろうか。
会えなかったら、また、頓服のお世話になるしかない。

                                            伽羅moon3




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