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下僕である。

夕べ、夜中、
冷たい風が吹いていて、寒かった。

祈る気持ちでムギのところに向かう。
どうか、小屋に居て欲しい!

門を入ったところで、怖がらないよう、小さい声で、
「ムギちゃん、ママだよ。」と声を掛けておく。

車の後ろに回り、小屋の中を懐中電灯で照らすと、
ムギのしま模様が見えた。

いた!
小屋に入っていてくれた!

ムギは、きゅ~ん、と小さい声で鳴いている。
甘える時の鳴き声。
逃げ出さずに、そのままいてね、と願いつつ、
静かに座る。

ムギちゃん、大丈夫?
きゅ~ん。
ムギ、元気?
きゅ~ん。
寒いねえムギ。
きゅ~ん。

会話が成立している。

ムギは逃げ出す気配がない。
こんな夜は、小屋に入っていてくれるだけで、ありがたいよ。
嬉しいよ。

小屋の前に座ってちょっと喋り、
「ムギ、ママ、ムギのことナデナデしてもいい?」と聞く。
きゅ~ん。

お許しが出たので、手を差し入れて、頭をくるくる撫でる。
ムギが、ぐふ~ぐふ~と言う。
機嫌はいい。

でも、お腹ちゃんは?とは聞かずに、やめておいた。

ムギ、ちゅーる、食べようね~。

ガラスの器にちゅーるを絞りだしてやり、
小屋に差し入れ。
ムギは嬉しそうに舐める。

ムギ、ちゅーる大好きだね。
ママは食べたことないけど、おいしそうだよね。
毎晩会ってくれたら、毎晩あげるからね。

お皿がピカピカになるまで、舐めた。

お皿を綺麗にして、伏せて、
またしばらくムギを眺める。
ムギは落ち着いている。
この感じは、入院前と同じだ。

でも、今夜はもうこれで帰ろう。
ムギが小屋で寝ていてくれることが一番大事だから、
深追いはしないでおく。

また明日ね、ともう一回、頭を撫でて、帰った。


カウンセリングだった。
ムギの一件で、一ヶ月くらい、すごい緊張状態が続き、
今は、ガクガクしていることを話した。
昨日までは、ドリンク剤を飲まないと、
しんどくて歩けなかったのだ。

カウンセリングに行く街が、
こじんまりとしゃれた都会なので、
以前は時々、外食したりもしていたのだが、
ムギがお外に出て、わたしもお世話をするようになってからは、
すごく急いで帰る。

デパートもあり、駅ビルもあり、
見たいショップはいっぱいあるのだが、
とにかく、買いたいものを決めておいて、
それらを買ったら、ダッシュで電車に乗って帰る。

もっとゆっくり文具や雑貨を見たいけど、
ちまとムギが空腹で待ってると思うと、
小さい息子を一人で留守番させていた当時を思い出し、
めちゃくちゃ、気がせくのだ。

小走りで帰宅して、ちまに餌をやり、シャワーして着替えて、
息を整えて、
ムギに会いに行った。

もう暗くなってしまったから、ムギ、怖くないといいな。
居てくれるといいな。
居なくても、帰って来てくれるといいな。

やっぱり期待してしまう。

門を開けて、小さい声で、「ムギちゃん、ママだよ。」と
知らせながら近付く。

ムギ、小屋に入っていてくれた!
しかも、逃げ出す様子がなくて、
きゅ~んと鳴きながら、わたしを見つめている。

音を立てないよう、細心の注意を払いながら、ゆっくり座る。
ひざ掛けを自分に掛ける。

ムギが、嬉しそうに出て来て、
わたしの横に来て、
すんなりと、乗ってきてくれた。

ムギちゃん!

いいの?
怖くないの?
ママを信じてくれるの?

ふっくらとしたまあるいムギを撫でる。
嬉しい。本当に嬉しい。

昨日まで、怖い気持ちと、ずっと闘っていたのだ。

ありがとうムギ。
信じてくれてありがとう。

体を拭いて、お腹ちゃんは?と言ったら、
ちゃんと体をよじって、お腹を見せてくれた。

ブラッシングして、ムギはツヤツヤになった。

風がなくて、しのぎやすいけれど、
まだまだ、毛布でくるまなくてはならない日が多いので、
ムギには、毛布を克服してもらいたい。

今日はとりあえず、小さいフリースを、そーっと掛けた。
成功。

明日はまた、入院前みたいに、
毛布をかけたい。


くっついて過ごして、
時々振り返って、わたしを見て、
にっこりするムギ。
入院前とおんなじ日常。

日常の、こういうことが、どんなにありがたいか、
わたしもわかったし、
もしかしたらムギも実感したかもしれない。

今までどおりに、過ごしてくれた。
途中、降りて座って、「おかかくれ!」と言って食べて、
また乗って、
しばらくしたら、今度は小屋に入り、
「シーバくれ!」というので、差し入れてやった。

もう、こっちは下僕である。
お猫さまだ。

ちょっと食べると出て来て、パトロールに行こうか迷っているので、
「ムギ、行かなくていいよ、大丈夫だからおいで。」
と言うと、
わたしをまたいで、また、後ろ向きに乗る。

いいねえ、ムギのふっくらとしたフォルム。
可愛い手触り。

やがて、降りて、座ると、
眼で、「シーバを、手から食べたい。」と訴えた。

なんだろう。
目線と、目力で、言葉が通じるのだ。

はいはい、そういたしましょうね。
手の指に一粒ずつ乗せて、ゆっくり食べる。
それをしばらくしたあと、足りたと見えて、車の横に移動した。

ムギ、じゃあママ帰るよ。
夜中にまた来るからね。
会えたら、ちゅーるあげるから、小屋で待っててね。

そう声をかけて帰った。
今日は、一時間とちょっと、一緒に居られた。

入院前と同じ感じで過ごせた。

引き続き、慎重に行動する。
怖がらせない、不安にさせない、やり過ぎない。
気を抜かないように頑張るよ。


ちまには、ムギちゃん見てくるね、と
正直に言ってから出かけている。
どうせ匂いでばれる。

帰って来ると、「わたしにも何かちょうだいよ!」と言う。
お姫さまにゃんこ。

ソファに座っていると、
わたしが抱えているクッションに、ちまがひらっと乗ってきて、
くつろぐ。
ソファ、買って良かったよ。

ちまはサバトラ×白。
背中は、真っ黒な猫だったのに、
ムギを部屋に入れたあたりから、ちまには急に白髪が出始めた。
すごいストレスだったんだね。
ちま、すごく頑張って、受け入れようと努力してくれてたもんね。

ごめんねちま。
いっぱい辛い思いさせた。

ちまは3月生まれ。
もうすぐ8歳になる。

来たときは、赤ちゃんだったのに、
おばちゃん同士になっちゃったね。

ちまは、お風呂場のチェックをする。
ムギが使っていた、春物の薄いドームベッドがあるのだが、
それに入っていることがある。
なので、そのベッドが欲しいのかと思い、
リセッシュして、部屋に置いたら、
全然入らない。
どうやら、そういう意味ではないようだ。

もう、ムギを安易にお風呂場に入れることはしない。
必要があれば、お金を出して、病院泊にする。
そうすれば、誰も傷付かないで済む。

猫だって、立派に気持ちを持って生きてる。
相手を尊重しなくてはね。

                                           伽羅moon3




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