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箱入りチョコレート。

わたしが東京に出てきたのは、
ちょうど、バブルが始まった当時だった。

わたしは、少女期、
母に、髪を伸ばすのを禁じられていた。
わたしが女の子らしくあることを、
母は極端に嫌った。

だからずっとショートカットで、眉の濃かったわたしは、
中学生になるまでのあいだ、
男の子と間違われ続けていた。

東京に出て来て、髪を伸ばし始めた。
ワンレン・ソバージュが最盛期の時代だった。
わたしは髪にうねりがあるので、
ストレートパーマをかけてさらさらにし、
前髪にパーマをかけて薄く垂らしたり、
ロングヘアの、耳から下だけに、ソバージュをかけたりした。

髪が長いことが、
わたしにとっての、女性らしさの象徴だったのだ。
とても髪を大事にしていた。


同じマンションの同じ階に、デザイン事務所を開いたと、
あるときご挨拶にいらして、
生まれて初めて、ゴディバのチョコをいただいた。

その時わたしは、別の職場にいたのだが、
そこが傾いてしまったので、
その後たまたま、お会いした、そのデザイン事務所の先生に、
わたしには技術があるけれど、
今は無職であると告げたら、
来て欲しいと即答してもらった。

いきなり、仕事を与えられたが、
わたしは、そこで使っているワープロも打ちこなすことができたし、
撮影機材にも精通していて、
使うことも、メンテすることもできた。
何より、ペンを持つ腕を買われて、
一日にして、時給が100円アップされた。

とても景気が良くて、
新聞社や、京都のホテルなどの仕事がひっきりなしにあり、
同じマンションということで、
すごく忙しい時には、
夕方5時に一回帰って家事を済ませ、
息子を寝かしつけてから、夜10時から2時までまだ働く、
ということもやった。

わたしの生活はやっと潤い、
離婚に向けて、着々と準備を進めていった。

必要とされ、
能力を認められ、評価され、
気分が良かった。


その事務所にはちょっとしたお使い物で、
ゴディバのチョコがよく届いた。
わたしのような貧乏人から見れば、
夢のような箱だ。

それを開けて、「いくらでもどうぞ。」と言ってもらえる。
事務所は、先生と奥さんとで基本やっていらした。
二人ともがグラフィックデザイナー。
二人は、ひょいひょい、口にチョコを放り込む。

わたしは、箱に入っているチョコの説明書を、
さんざん眺めて、どれを頂こうか、迷いながら選んだ。

遠慮しなくていいのに、と言われたが、
遠慮ではなくて、
こんな高級なチョコを、
何の味であるか、気にもしないで、いきなり口に放り込むなんて、
もったいなくて、わたしには出来なかったのだ。

空になった箱も頂いて、
何年も大事に持っていた。
長く、チョコの濃厚な匂いが残っていた。


当時は、ゴディバが、外国チョコの先駆者であり、
ステイタスだったが、
今は様々な国のチョコがデパ地下で買えるようになった。

それで、時々、外国のではなく、
神戸のモロゾフの、箱入りのチョコを、自分に買っている。
ゴディバみたいに高くはないが、
わたしにとっては、いまだに、充分な贅沢品だ。

説明書を眺めて、これが何味、と確認しながら、
一つずつ、ゆっくり食べる。
何日もかけて、食べる。

チョコのデザインを見もしないで口に放り込むことなんて、
やっぱり出来ない。

万が一、わたしがお金持ちになっても、
きっとこのスタイルは、変わらないだろう。


そのデザイン事務所に在籍している間に、
離婚した。
大変お世話になった。

でも、バブルがはじけて、
末端の個人事務所にしわ寄せが来ることとなり、
その事務所は、ご自宅を改装して、
自宅兼事務所となって、
わたしは辞めざるを得なくなった。

わたしは、バイトをしながら、樹脂粘土の仕事を始め、
そのせいで、息子に、貧乏をまた、味合わせてしまった。


もう一回、この人生をやれと言われたら、
断りたい。
しんどいし、反省点だらけ、汚点だらけだ。

でも、息子を授かれたことは、本当に、良かった。
わたしなんかの子にしては、立派な大人になったと思う。
人の気持ちを、考えてあげられる子だと思う。

結婚して、仲が良くて幸せそうで、
わたしも、そのことが、本当に幸せだ。
ありがたいと思っている。


今日の夕方のムギの話。

夫が、ムギ居るから来たら?と教えてくれた。
時間は5時過ぎ。
いそいそと降りていくと、
ムギは小屋の隣の、爪とぎの座面に座っていた。

ムギちゃ~ん、と声を掛けながら行ったのに、
ムギは、そこから逃げて、逆に、車の前に座った。

伏せをしている状態で、
車の後ろに座っているわたしを、覗いている。

ああ、そうか。
警戒された。

ムギは、賢い子だ。
記憶力もすごい。
時間の概念もある。

5時半という時間帯。
パパが外から帰って来た。
パパが家の中にいる。
ママが降りてきた。
ママが座った。

これらすべてが、先週、捕まえられた時の条件に、
ピッタリと当てはまっているからだ。

だからムギは、用心深く、わたしを監視した。

そうとわかったので、時々、声はかけたが、
微動だにせず、ムギを待った。

10分考えて、ムギは決断して、
キャッキャと鳴きながら、わたしのところに来て、乗ってくれた。

信じてくれたのだ。

嬉しかった。
信じてもらえて、甘えてもらえて、嬉しい。
ムギはゴロゴロと言い、お腹も拭かせてくれて、
小さいフリースも受け入れてくれた。

ムギありがとね。怖かったんだね。
もう、ムギを捕まえたりしないよ。大丈夫だよ。

賢すぎて、こっちも誠心誠意、付き合わなくてはならないと思う。


今日は、床を磨いた。
丁寧に生きることが目標。
明日は何かまた、料理を作ろう。

                                           伽羅moon3




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