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大晦日。

大晦日に、息子と二人で帰省した。

品川駅のホームで早くから並んで
先頭で待っていた。
新幹線がホームに滑り込んできて、
息子とわたしが乗る車両が来たとき、
窓際に座っていた息子が顔を窓に近づけて、
わたしを探していた。

一瞬、目と目が合って、お互いにホッとする。
わたしは、わたしを探す息子の目に、
小さかったころを重ねて、
胸がきゅ~んとした。

重たいお土産の袋をと、
脱いだコートを棚に乗せてもらった。

ちょうどお昼時の新幹線で、
息子が東京駅でお弁当を買って乗っていてくれた。

わたしには、彩り豊かな豪華な和食のお弁当を買い、
息子は、崎陽軒のシウマイ弁当。
それ、わたしも大好きだけどね。

息子はビールを飲み、
ハイボールを飲み、
富士山が見えるよと教えてくれて、
一緒に美しい富士山を眺めた。

しあわせなひと時。

こうして二人きりになれることが、
もしかしたら二度とないことかもしれないので、
わたしは、伝えたいことを伝えておいた。

寡黙な子なので、黙って、わたしの話を聞いていた。


正直、胆のうの入院の際に、
個室を渋られて以来、
わたしは、生きることについて、意欲を失った。
何のために、誰のために、生きるのか、
まったくわからなくなった。

長生きしたくもないし、
夫を看取らねばとも思えないし、
ちまが死ぬときにわたしも死んでしまえばいいと、
自暴自棄になっていた。

だから、息子に、わたしが死ぬときの話をしたのだ。
こうして欲しい、と説明したのだが、
息子は返事に困って黙っていた。



新幹線から在来線に乗り換え、
実家近くの駅に到着。
父が車で迎えに来てくれていた。

わたしは、笑顔で、父に手を振った。
父もにこやかに手を振った。
いいお天気で、暖かい大晦日だった。

実家に帰省したのは、一年半ぶり。

もう、80歳をとうに超えた両親なのだから、
マメに帰ってあげなくてはならないのに、
それを実行できない、親不孝な娘。

明るく振舞わねば。
何事もなかったかのようにしていなければ。

家では、母が喜んで出迎えてくれた。
年末、ちょっと調子を崩したとかで、
やや顔色が冴えなかった。

父と母にむけて、買ってきた洋服を渡した。
父にはちょっと厚手のポロシャツ。
母には、セーターと、内側が毛布みたいなズボン二本。

息子と4人で、しばし歓談。
手術の話などをした。

大晦日は、すき焼きをしてくれる。
いつも、A5ランクのすごい霜降りのお肉を用意してくれているのだが、
今年は、そんな霜降りじゃないほうがいいです、と
手紙に書いておいた。

わたしは、自分の体がどの程度、脂に耐えられるのか、
まだわからなかったし、
息子も、若いのに、脂にすっかり弱くなったと言っていたので、
そんなすごい霜降りだと、
逆にしんどいのでは?と考えたのだ。

父が、何軒もスーパーをハシゴして、
牛肉を何回も下調べしたと言う。

赤身だけど、ちょっとサシが入っていて、
国産牛だけでは信用できないので、
「黒毛和牛」を買ってみた、とのこと。

夕方、すき焼き開始。
以前は、すき焼き鍋に、砂糖と醤油と酒をぶち込むやり方だったが、
もう、すき焼きのタレを使用することにしたらしい。
味が安定していて、最初からちゃんと美味しかった。
父が選んでくれた牛肉は、
とても美味しかった。

母は、ほとんど食べられなかった。
昔はすごく太っていて、大食漢だったのだが、
大腸の手術をして、何度も腸ねん転を起こしてからは、
食べられるものを厳しく自分で制限しており、
ほんのちょっとしか食べない。


一年半ぶりにわたしが帰って、
どう感じたのだろうか。

わたしは、正直、やっぱりね、と思った。

人は、変わらないのだ。
人を変えられるだなんて、おこがましいことであって、
絶対に無理なのだ。

母は、わかっていない。
今後も、わかることはない。

父が座を外すと、そのちょっとの間に、
わたしに、父の愚痴をささやく。

ああ、初日からこれか。

心底、がっかりだ。

食後の後片付けが終わると、
わたしは息子に、「あっちで、ガキの使いを見よう?」と誘って、
別の部屋に移動した。

わたしと息子は例年、
「ガキの使い」を見て年越しをするのだ。
そうして母と離れた。

元旦、ご近所の親しいお宅が、
父と息子を、昼食に招待してくれていると聞き、
わたしは慌てた。
父と息子が居なくなったら、母と二人きりになってしまう!
無理無理!

それで、わたしもおばちゃんに会いたいから一緒に行く、と言ったら、
母が、じゃあわたしも行く、それで、二人で早く帰って来よう?と
わたしに提案してきた。
いや、無理無理。

わたしは息子に、
明日、一緒に行動させてね、とこっそり頼んだ。

ガキ使いを見て、おもしろ壮を見て、
息子が寝に行った。
わたしはそこから歯磨きをして、薬を飲んで、
息子と同じ部屋で寝る。
隣で眠れる。
嬉しい。
息子はもうすっかり寝付いていた。

豆電球をつけたままにして、
わたしは息子をしみじみ見つめた。

可愛い息子。
この世で一番愛おしい息子。
わたしの首に抱きつかないと寝なかった子。

すぴすぴと気分良さそうに寝ていた。
しばらく寝顔を眺めていて、それから眠った。


長くなるので続きます。

                                            伽羅moon3




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