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悲しいラケット。

部屋がリフォームされて、
ベッドの導入にあわせて家具の配置も全部変えた。

この機会にと、押入れの奥や、クローゼットの上の棚を、
全部見た。

捨てられるものは捨てて、
使わないけど、捨てるに惜しいものは、
一応取って置く。

クローゼットの上の棚の、
一番端の、一番奥に、平たい箱があった。
わたしはそれを、手織物のキットだと思っていた。
確か、簡易機織りを持っていたのだ。

そう思って開けてみると、
中から出てきたのは、
卓球のラケットだった。

息子の、中学生の時のものだ。

ここにある、ってことは、
息子が独り立ちをして引っ越したあと、
残していった物の中から、わざわざチョイスして、
再婚の時に、持って来たということだ。

そして、アパートに越してきた時にも、
持って来て、でも、一番奥の、一番端に、自分が入れたということだ。

記憶になかった。

ビニールのケースから出してみた。

欠けているし、ゴムもはがれていて、ボロボロだった。

そうだよね。
買い換えてあげた記憶がないから、
3年間、これ一本だったんだよね。

そしたら、過去の記憶がよみがえってきて、
泣いてしまった。


息子は、中学に入って、部活を選ぶとき、
バスケ部に入りたいと言った。

しかし、わたしは、それを叶えてやれなかったのだ。

当時、諸事情で、極貧だった。
わたしは昼も夜も働いていた。

資料を読むと、バスケ部は、
ユニフォーム代、靴代、お揃いのカバン代などで、
最初に、5万くらいかかることがわかった。

その、たった5万を、出してやれなかったのだ。

わたしも、親に理解されず、夢を断たれた身なので、
辛かったが、
息子には事実を話して、
ラケット一本だけあればいい、という、卓球部にしてもらったのだ。
靴も学校の体育用の靴で良かった。

スポーツショップに行って、
一番安いラケットを一本と、ボールを2個か3個買った。
それだけ。


部活が始まり、初日に、息子が帰ってきた。
部屋に様子を見に行くと、息子が泣き出した。

「ボク以外、全員が経験者だったよ。ボクだけ玉に当たらないんだよ。」
そう言って、涙をこぼした。

ああ、何ということだろう!
やりたいバスケをやらせてやれず、卓球部に入れたら、
こんな辛い思いをするなんて。

わたしは息子の肩を抱いて、
「泣いていいよ、ママしかいないんだから、泣いていいよ。」
と言って泣かせてやった。

そしてわたしも、親として、思いを叶えてあげられないことが辛くて、
一緒に泣いた。

泣かせてもらえなかったわたしの少女時代。
苦しかったので、
息子には泣かせてやろうと、思っていたのだ。

でも、こんなことで泣かせてしまうなんて。
申し訳なくて辛かった。

お互いに泣き止んでから、
座卓で、二人で練習をした。
息子はその安いラケットを持ち、
わたしは小さい下敷きを使って、ボールを打ち合った。

しっかり玉を見ていてね、
見ていれば、必ず、当たるようになるからね、と
励ましながら練習した。

2~3日、練習したと思う。

そのうち、息子は、辛そうではなくなってきた。

夏休みも、毎日休まずに、部活に行っていた。
毎日、お弁当持ちだ。

わたしが繰り返しブログ記事に書いている、
「エビのシッポ」事件は、
この年の夏休みのことである。

食材も買えずに、貧しいお弁当だった。

息子は、一日も休まずに、部活に参加した。

しかし、あまり上達はしなかったらしくて、
ずっと、補欠だった。
試合の日も、大雨で、カッパを着て、他の学校まで遠征したが、
やっぱりずっと、補欠だった。

担任の先生が、卓球部の顧問だったので、
保護者面談の時に、
真面目に頑張ってくれているのに、
試合に出してやれていなくてすみません、と言われた。

息子は、試合に出られなくても、
腐ることなく、
毎日部活に行っていた。

偉いと思った。
本人も、自分が上手ではないことはわかっているだろう。
やりたかったバスケでもない。

でも、腐らず、諦めず、放棄せずに、
三年間、休まずに続けた。
それは、すごいと思う。

わたしは、ラケットを撫でながら泣いた。

こんなにボロボロだったんだ。
途中で買い換えてあげれば良かった。
下手でも、毎日頑張っていたのに、
こんなラケットだったんだ。


わたしは、グラフィックデザインをやることが夢だったが、
そんな言葉すら知らない親に阻止された。

だから、息子の辛さはわかるし、
それでも腐らずに行き続けた彼は、偉いと思う。

結果は何も残せなかったかもしれない。
記録としての結果はなかったかもしれない。

でも、わたしの心に、
頑張っていた息子の姿が、はっきりと残っている。

多分、それを一生忘れないために、
わたしはこのラケットを持って嫁に来たのだ。

偉かったね。
頑張ったね。
ママ、見ていたよ。わかっていたよ。

ちゃんと真面目に取り組む姿、他の場面でも知っているよ。

わたしは息子を誇りに思う。

ラケットは、大事に取っておく。

                                          伽羅moon3



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