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失うのは嫌だ!

わたしの中には最新鋭の超音波の機材が挿入されたまま、カーテンを開けられました。

そもそも、普通の一人掛けソファに座った途端、回転しながら上昇しながら両足を開かれるというシステムに面食らった直後です。
柔和な表情で、ドクターは
「うちでは手に負えない」と断言したのです。

『まず、これを見てください。右の卵巣です。普通は、
胡桃大のものです。あなたのは、鶏卵大になっています。5.5センチです。左は4.5センチ。』
モニターを指しながらドクターは淡々と説明していきます。
『これで考えられる最悪の病名は、
卵巣膿腫です。通常4.5センチから5.0センチになると、破裂の恐れがあるので、切除します。腹腔内で破裂したら大変なことになるからです。でも、左はなんとか残せるかもしれない。』

らんそうのうしゅ…。切除…。摘出…。
卵巣は、卵子を排出するだけではなく、女性ホルモンに大きく関わっているとされています。なので、もう妊娠を望まない場合も、残せるものは残したほうがいいとわたしは見聞いていました。

『それから、子宮ですが…おっしゃるとおり、壁の中に2.5センチの筋腫があります。だけど、これがそんな大出血を起しているとは考えられない。それよりも深刻なのが子宮内膜です。通常、生理の寸前でも子宮内膜は
1センチくらいの厚みのものです。だけどあなたのは2.2センチにもなっている。』
その数字にぞっとしました。今日はたまたま止まっていますが、またあの
大出血に見舞われることは必須…。
『いままでの経過と、この状況を見て、最悪の病名は、
子宮内膜増殖症、です。これだとすると、子宮も助けられない。』

わたしは、黙りました。

別に卵巣も不要だし子宮なんてもう使わない。今はどうせ抱いてくれる相手もいない。

だけど、あんまりではないか…。
こんなに次々と、あんまりではないか…。

『紹介状を書きます。家に近いほうが通いやすいかな?』
わたしは頷きました。もう職場どうこうの問題ではありません。大規模な外科手術をしなければいけないかもしれないのだ…。
『あなたの家に近いところだと…』とドクターは3つの病院名を出しました。
わたしは、3つ目に出た、大学病院をお願いしました。
聞けばドクターはその大学病院の分院で婦人科の医長をしていたことがあり、系列の医者は全て顔見知りだということでした。

操縦席のような診察台から解放され、わたしは待合室に戻りました。
紹介者に
『大学病院に行くことになった。手術しなくちゃいけないかもしれない。』と告げました。
そのうちに彼は診察室に呼ばれ(産婦人科で男性が一人診察室に入っていく奇妙な風景!)、旧知の仲を暖めたようでした。


もう一度問診の部屋に呼ばれると、紹介状が用意されていました。
大学病院の婦人科の医長宛になっていました。
その人に診てもらえるかどうかはわからないけれど、その科のトップの人宛に書くのが紹介状の暗黙のルールだそうです。
厳重に封印されたその封筒を頂いて、そのクリニックをあとにしました。


帰宅して一人になってから、泣きました。

あの人が居ない留守に、子宮を失ってしまうのは嫌だ!

使う使わないの問題ではありません。年齢も、問題ではありません。
一人で、その
喪失に耐えるのは嫌だ…。


声をひそめて泣きました。

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