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最後の拘置所

そしてわたしは、やはり「会えるかも」という甘い期待を見事に裏切られました。

『本人もうここにはいません。22日に移送になりました。あとは、本人からの手紙を待ってください。』

もう居ない…
どこに移送されたかわからない…
店のオープンの、あの雨の日にどこかに移されたんだ…。

わたしは力なくベンチに腰を下ろしました。
そして思い出してもう一度窓口に行き、
「じゃあ、手紙が来るまでこちらからは手紙を出さないほうがいいでしょうか?」と聞きました。
「そうですね、そのほうがいいと思います。」
「移送されたのを知らなかったので…こちら宛に出していたわたしの手紙はどうなっているんでしょうか?」 
「それは、転送されると思いますので大丈夫です。」


下獄して刑務所に入ると、手紙のやりとりも、面会も、配偶者か親族しか出来なくなります。
わたしたちは籍を入れていないので夫婦ではありません。内妻と認定されれば、手紙も面会も大丈夫です。しかし、内妻の条件は、「一緒に暮らしていること」なのです。
アパートの鍵を受け取りに行く日の朝に彼は逮捕されたので、一緒に暮らした経緯はありません。ですが、借りたアパートの書類はあります。いざとなったらそれで言い張るしかありません。
全てを見越して、差し入れの続き柄の欄には、「内妻」と書き続けてきました。
認定するのは、行った先の刑務所の所長です。万が一認めてもらえなかったら、そのときには婚姻届を出す覚悟でいました。  


これで、この拘置所に来るのも最後。


初めて来てから
4ヶ月が経過していました。
冬の景色から、桜が咲き、散り、葉が出て茂り、その日その日のわたしの服装を見ては、彼は季節の移り変わりを感じ取るようでした。
窓のないグレー一色の拘置所から、彼はどこに送られたんだろう。
雑居になって、どんな扱いを受けているんだろう…。 

わたしは、ゆっくりと待合室と売店を見回してから、外に出ました。もう二度と、ここに来ることは無い。

歩道橋を渡り、駐車場を横切り、コンクリートの門を出たところでわたしは振り返り、東京拘置所に向かって深々と一礼しました。 

すり減り、傷だらけになった
銀の靴は、その役割を終えました。

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