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砂の城

彼が受刑者となってしまい、会えなくなる恐怖から逃れるかのように、わたしはその週も目一杯人と会う約束を詰め込んでありました。
一日も隙間なく7日間ずっとです。
わたしは
極限の緊張状態にあり、そしてそれと比例するかのように、体調が崩れて行きました。

水曜日は、夕方メンバーとの飲み会を控えていたため、わたしは何となく
利便だけを考えて4時近くに面会に訪れました。
申し込み票を書き、申請し、目で呼ばれて許可票をもらいに行くと、月曜に「えっ?」と見つめあった係官がわたしを見つめて言いました。

『本人は今日から受刑者に切り替わりました。今日の面会が6月分となりますがいいですか?』

余りの衝撃にわたしの目から涙がわっとあふれ出ました。

わかっていたはずなのに!

拘留期間が延長になったことで油断していた!
なんの覚悟もなく、何気なく来たこの日が
「その日」になるとは…。

今日の面会を延ばしても、いつ彼がどこの刑務所に移送されるかがわからないため、いつ会いにくればいいのか判断がつきません。
今日会って、丸刈りにされたばかりの彼を見るのがわたしの務めだ…。
そう考えて、「はい」と答えました。


同じように東京拘置所内に居ても、被疑者や被告ではなく、
受刑者となるのです。
そしてそう遠くない日のうちに、どこかの刑務所に送り込まれる…。
そうすると、どこに行ったかは本人から手紙が来るまでわからず、面会も向こうからの手紙も月一通しか出せません。
彼も辛いでしょうが、彼はそれも罪の償いと矯正の一環です。
わたしはその辛さに耐えながらも、働き生きて行かなくてはならない。
支えて助けてくれる人はいる。でも、盾となり守ってくれる人も無く、抱いてくれる人も無い、一人ぼっちの女として、この先ずっと…。


面会室に入ると、程なく彼が入って来ました。
丸刈りの頭に、グレーの作業着姿でした。
おどけて頭を撫でながら入室してきましたが、わたしが既に涙をこぼしているのを見て、神妙な顔つきになりました。


彼の赤毛が好きでした。彼のクセ毛が好きでした。
彼が居なくなってから、わたしは一緒に歩いた街に彼を探し、繋ぐ手が無いことを悲しみ、彷徨いました。
その面影は消え、わたしの知らない
犯人顔の男性がそこには居ました。

説明によると、今朝突然、受刑者になりますと告知され、わたしが差し入れした、高い缶詰もスカシユリもかりんとうも、没収になってしまったそうです。
手元に持っていて時々読み返していたわたしからの50通を超える手紙も領置。
作業が与えられ、紙を折る作業をしたこと。
刑務所は、どこに行くのか当日まで本人にも知らされないが、栃木の黒羽が有力らしいこと…。

真面目に頑張って、一日も早く姫のところに帰れるよう耐えるから…。

彼のその言葉を最後に、非情にも刑務官は立ち上がりました。
わたしは彼の名を叫びました。

ドアの向こうに、彼は消えました。


わたしの体は、その日を境に悲鳴を上げて壊れ始め、砂の城は足元を削られて行きました。

拘置所のベンチで、長く長く泣きました。

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