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隙間を埋める

保護司は、隣町から自転車でやって来ました。汗だくでした。
刑務所に移送されて最初に書いた彼の「帰住予定地」の地図がデタラメだったため、見つけにくかったのだと遅れた言い訳をしました。
それはそうでしょう、彼はわたしの家に来たことがないのですから、知る術がないのです。
ただ、アパートを借りるときに不動産屋に行くためにこの駅に降り立ったことがあるというだけで、来た事のない家までの地図を書けるはずがありませんでした。

保護司は建物をぐるっと見て回って、あとは喫茶店でということになり、彼は自転車を引き、わたしは保護司に見せるべく様々な書類をファイルしたものを持って、炎天下を歩きながら話しました。
近所付き合いはあるかという質問に、NOと答えたわたしに保護司はこう説明しました。
「近所づきあいがあると帰ってきたときに逆に色々勘ぐられたり聞かれたりするから、面倒なんだよね。」
なるほど、そういうものかと思いました。
保護司は気さくに、今まで担当してきているのが、少年とヤクザが殆どで、こんな風に身元引受人が居て本人の態度に問題の無い人を担当するのは初めてだと言いました。
「だけどね、仮釈放が決まって、引受人に連絡するでしょ、はいわかりました、迎えに行きますって言ってて、迎えに来ず、逃げちゃう人がけっこう居てねえ。」
信じられない話でした。

身元引受人が迎えに行かないと、仮釈放は認められません。
釈放の儀式を終えて出てみたら迎えがいない…。 そんな残酷な話があるでしょうか。
迎えに行けない・一緒に暮らせないなら、身元引受人を途中で辞任しないと、返って残酷です。頭を垂れてまた独房に戻っていく受刑者の姿を想像し、わたしは暗い気持ちになりました。

喫茶店に入り、保護司からの問診のようなものが始まりました。
一つの質問に対して、選ぶ答えが5つあります。例えば、

:あなたは○○さんの身元引受人に
:①なりたくない  ②できればなりたくない  ③どちらともいえない  ④なってもいい  ⑤ぜひなりたい

という感じで、質問が続くのです。
一通り質問と確認が終わり、なんだか大丈夫そうですね、と保護司は立ち上がりかけたのですが、わたしは引き止めました。
たった一回の法廷での証人として、果たせなかったことを今こそ補わなくてはならない。わたしは必死でした。

用意してあったファイルを見せ、書類(接見禁止決定書から、起訴状、弁論要旨、内妻照会書など)彼の全てをわたしが管理していること、面会にも欠かさず行き、週に3~4通の手紙を出していること、彼の父親が尋ねて来て土下座をせんばかりに頼まれたこと、そしてわたしのバックには、5人の仲間と、「親切すぎる」弁護士がついており、バックアップ体制が万全である事をアピールしました。
わたしは泣きながら保護司に頭を下げました。

『どうか、お力をお貸しください。一日も早く、わたしは彼をこの手に取り戻したいのです。』
保護司は感銘してくれ、最善を尽くし最適な報告書を書くことを約束してくれました。

面談は、半年毎に行われます。「心変わりしていないかを調べるわけですね?」と聞くと、彼は笑って、まあそういうことです。と答え、ついでに、保護司としての苦労や、自分の子供の愚痴などをわたしにつらつらと話して、席を立ちました。10分くらいと言っていたのが、一時間半を過ぎていました。

情状証人として、法廷で言えなかった一言を、わたしは保護司に託すことができました。


『一日も早く、彼をこの手に取り戻したいのです! お願いします!』

やっと言えた。初公判の日、弁護人から「もう出来ることは何もありません。」と言われてから引きずっていた3本目の鎖を、ようやくここで解きました。

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