名実ともに。

昨日の夕方、ムギと二時間一緒に過ごせた。
血の通い合う、濃密な二時間だった。
すごく意義のある、必要な時間だった。


約束した通り、夜中の2時に、またムギに会いに行った。
ムギは体内に時計を持っている。
だから、約束すればちゃんと待っていてくれる。
人間の都合で約束を破れば、
言い訳もごまかしも、通用しない。

人間を育てる方がむしろ融通が利くと感じる。

ムギは小屋の中でゆったり座って待っていてくれた。
手を入れて撫でる。ちょっとザラっとする。
コンクリートの上でゴロンゴロンやったのだろう。

「ムギ、お腹ちゃんは?」と要求すると、
くるっと反転して、お腹を見せてくれた。
温かい、ぽちゃぽちゃのお腹ちゃんも可愛いが、
オバケちゃんみたいに曲げている、まあるい、大きなおててが、
超超超、可愛くて、
にぎにぎさせてもらう。
ムギは軽く、爪を食い込ませてくる。

ムギ、お腹ちゃんカワイイ~!と褒めながら撫でまくり。
手を引っ込めても、まだそのままのポーズだったので、
撮影会の始まり。
バカみたいに一杯写真を撮った。

それでもまだ、お腹を出して仰向けでいるので、
わたしは、態勢はきついけれども、ひざまづいて、
ムギのお腹に、自分の手のひらを当てていた。

ムギが温かい。
ムギが生きている。
ムギが健康だ。
嬉しい。



すると、ムギが、わたしの腕を、ぎゅーむ、と手で押した。
あ、これは、「もうそろそろ、やめてね。」かな?と思った。
もういいでしょ!のとき、押し返されることがあるからだ。

けれど次の瞬間、もう片方のムギの手が当たって、
そっちで、ぎゅーむ、と押された。

左右の手で、わたしの腕を、交互に、ぎゅーむ・ぎゅーむ、と押すのだ。

ムギ…

それ…



ふみふみ?

ふみふみなの???



わたしは驚きのあまり、声を失って、ただ、
ムギの行動を受けていた。

確かにそれは、「ふみふみ」行動だった。


猫を飼っている人にアンケートした結果、
一番かわいいと感じる猫のしぐさが、「ふみふみ」だった。

これは、赤ちゃんの頃、母猫のおっぱいを飲むにあたり、
よくおっぱいが出るようにと、
手を交互におっぱいに押し当てて、フミフミしながら飲む、
その名残りである。

なので、本当に信頼している相手か、好きな人か、
もしくは感触が気に入っているもの(クッションとか毛布とか)
にしか、やらないものなのだ。

ムギと出会って、丸3年が過ぎた。
わたしは最初から、「ママ」と名乗った。
夫のことを「パパ」と教えた。

ムギはたまに、ちゃんと「ママ!」と呼ぶ。
「パパ」は言いにくいらしく、「ワンワン」と言いながら、
夫に寄ってくることがあるというので、
その「ワンワン」が、「パパ」なんだと思っている。

そしてフミフミ行動。

二回くらい、これは、ふみふみか…いや、もうやめてね、だよね、と
腕を引いてしまった経験がある。
やめないと、ガジガジされてしまうからだ。

でも最近のムギは、パシッも、柔らかく遅くなって、ふわっとしか当てないし、
噛むよ?も、歯を当ててるだけで、一切噛まなくなった。

なので、わたしは腕を引かないでそのままで居てみたのだ。


ムギ…
「ふみふみ」だったんだね。
きっと今までも、しようとしたことがあったんだね。

ああ、嬉しいよ。
これで、ママは、名実ともに、「ムギのママ」だよね?
ママだから、甘えてふみふみしてくれたんだよね?


ムギを一方的に愛しているだけでなく、
ムギからも愛されてると知って、本当に幸せだ。

この信頼を裏切らないよう、毎日をコツコツ頑張らないとね。



いい言い方ではないが、
ムギを襲撃に来ていたノラ猫は、ほとんど見かけなくなった。
ムギを外に出して小屋を置いた冬は、
毎晩毎晩、順番に奴らはムギを襲撃に来ていて、
毎晩争う声を聞いて、
わたしはコートを羽織って棒を持って飛び出していた。

そんなストレスと、今のように暖かくしていなかった小屋のせいで、
ムギは病気になって、死の淵に立った。

必死に救った。
出会ってまだ一年しか経ってない。
ムギはまだたった4歳だ、死なせてなるものかと、
必死になった。

あのとき、わたしには狂気が見られたことだろう。



完全なノラ猫の平均寿命が、たった4歳であると、
テレビで知って、ビックリした。
家猫は、15歳、18歳、20歳も生きる子がいるのに、
たった4年?

その時、強く思った。
ムギは外猫だけど、野良じゃない。
うちの子だ。
だから、4歳なんかで絶対に死なせない。

いい餌を与え、小屋を暖かく保ち、
触れ合う愛情をたっぷりと与え、心の栄養になるおやつもあげる。

今、もう、近所では、ノラ猫をほぼ見かけなくなった。
争う声も、ごくたまにしか聞いてないし、
圧倒的にムギが強いし、
怪我も、必ず顔とか前足なので、
ムギは真っ向勝負している。
逃げて噛まれたことは一度もない。

「名誉の負傷だよね。」と、
担当の先生に言ってもらっている。

野良たちは、どうにか餌を得られても、
膝に乗って愛されることはない。
暖かくてふわふわした場所で寝られることもない。
美味しいおやつもない。

淘汰されて減ったのだろう。

ムギが、小屋にいる確率が高くなったのは、
この冬の寒さが厳しいから、というのもあるけれど、
闘う敵が、減ったからでもある。


わたしと夫は必死にムギを守っている。
本来なら家猫にしたかったが、それが無理だった。

けれど、庭を走り回って、柿の木で爪とぎをしている姿は、
自由で、イキイキとして見える。


ムギが楽しい日々を、一日でも長く生きられるよう、
パパもママも、努力するよ。
ムギを守るよ。

だって、パパと、ママなんだもの!


ちなみに、ちまは、
アラームが鳴ってわたしが起きようとしてもがいていると、
お腹に乗ってくれて、
いつも、パンパンの膀胱を、「ふみふみ」してくれる、親切な子です。

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精神の「基幹」。

楽曲「ロード」ではないが、
何でもない、ごく普通の日が、
最も幸せだ。

しみじみ、そう思う。

わたしはもう、旅行には行かないだろう。
芝居も、ライブにも、行かない。
どうしてもの場合は、展示会、映画程度だと思う。

そして、それでいい。
充分に満たされている。


これ以上ない、いい部屋に住んでいる。
洗濯機は外だけれど、不自由に感じたことはない。
ベランダも、庇さえもないので一年中部屋干しだけれど、
むしろOK。

お気に入りのものに囲まれて、
何かを買ったら何かを捨てて、
これ以上にならないように暮らして行く。

部屋には天使のちまちゃんが居て、起こしてくれる。

お外には、小悪魔ちゃんのムギがいて、
誘惑してくる。

ちまが正妻で、ムギが愛人だ。

ちま、ごめん。ママ浮気してる。

けれども、ムギとうまく行っていないと、
わたしの精神の均衡がはかれないのだ。
ムギに会えなければ、もう生きてることさえどうでもよくなり、
ムギとの時間を邪魔されれば、その相手を憎む。

ムギとうまく行っていることが、
わたしの精神状態の「基幹」となっているのだ。

そこを保てないと、何もかもがうまく行かない。
イライラし、当たり散らし、気分転換も不得意なので、
仕方なく強い薬で抑圧する。

それは、一時的に薬でぼーっとさせるだけなので、
もちろん、何も解決しない。

解決させられるのは、自分の努力の積み重ねだけだ。

だから、ノイローゼ気味になる。
異常にムギに執着し、邪魔されると怒りの炎が燃え盛る。



今日はお姑さんは、デイサービスに行かず、自宅にいる日。
ヘルパーさんが一日に二度来るが、
いつも予定通りに帰ってくれない。

そして、ヘルパーさんが苦労して閉めた勝手口の鍵を、
お姑さんが、ヘルパーさんを追うように、
いとも簡単に内側から開けて、外に出て、
ずったらずったら歩きまわって、
郵便受けをガシャガシャやって、
またずったらずったら、帰る。

家に入るとき、勝手口の明かりを消してしまう日もあれば、
勝手口の外履きサンダルを、丁寧に家に入れていたりもする。
毎日いろんなことが起こる。


ヘルパーさんが帰って、お姑さんの庭のずったらも終わったのを確認して、
ムギに会いに行った。

門扉の外から見た時、ムギは爪とぎに座ってこちらを見ていた。
「ムギちゃん!」と声を掛けると、ムギが明るく返事をした。
うん、昨日よりもいい感じがする。

車の横まで出て来たムギと向かい合って、
もう一度、
「ムギちゃ~ん。」
「きゅ~ん。」
を、やってみる。
うん、いい感じだ。

わたしが反対側から回って、ムギのリビングに行くと、
車の横で、
昨日は警戒してわたしを見つめていたのだが、
今日はお腹を出したポーズをしてくれていて、
そのまま、止まっていた。
「きゃ~、ムギちゃん、カワイイ~!」と、盛大に褒める。
これ、お決まりのパターン。

すると、ムギはそう?ボクってカワイイ?とくねくねして、
それから、車の後ろを歩いて、わたしの後ろに回り、
また、お腹ちゃんを出してくねくねする。
「きゃ~ん、ムギかわいいい~!」
と、盛大に褒める。これもお約束。

すると、ムギは、起き上がってまっすぐに
わたしの脚に乗って来た。


あああ。
ムギちゃん。
ありがとう。
幸せで泣きそうだよ。


今日は春のように暖かく、風もなかった。
温度計を見ると、その時刻で10℃もあった。
どこかから、梅の香りがしていた。

そうか、いつのまにか、二月も後半になっているんだね。
気が付かなかったよ。
ムギの検診のこと、
ちまの検診の予約で、頭がいっぱいで、
わたしのテーブルは、ふせんだらけだ。

手帳に、カレンダーに、書いても書いても忘れるので、
一番近い日にやるべきことから順に、
蛍光色の付箋に記入して、テーブルに貼ってある。
終わったらはがして捨てるシステム。

今日は燃えるゴミ、とか、
今日は自分の注射を打つ日、とか、
どこかに予約を入れる日とか、
宅配が届く日とか、
常に数枚の付箋が貼ってある。



ムギは今日は、以前と何ら変わりなく、自然に乗ってくれた。
わたしを疑っている様子も見られなかった。
なので、丁寧にウェットシートで体を拭いて、
お腹ちゃんは?と聞いたら、ムギはお腹を拭きやすいよう、
体をねじってくれた。
本当に、何でもわかるんだねえ。

しばらくお喋りをして、ゆっくり体を撫でた。
今日は草の実はついていないし、カサブタも、もうない。

暖かいけど、そのうち冷えて来るだろうと思って、
毛布を軽くふんわりかけた。

ムギは何も語らなかった。
ゴロゴロも言わないし、ぐふぐふも言わないで、
ただただ、わたしに黙って乗っていた。

ねえムギ、ムギ、今、ママからチャージ受けてるよね。
でもね、ママもムギからすごいチャージ受けてるんだよ?
ムギがいないと、ママ、駄目なんだ。
何にも楽しめないの。何も手に着かないの。

ムギは耳だけこちらに向けていて、黙って聞いていた。


途中、ガチャっと勝手口が開いた。
もちろん、お姑さんだ。
ムギはおばあちゃんが大嫌いなので、パッと逃げた。
わたしは、微動だにせず、振り向くこともしない。

そうすると、お姑さんはいつも、
明かりをつけたり消したり、
鍵を閉めたり開けたり、
チエーンを掛けようとしてじゃらじゃら言わせたりする。

それが治まって、気配が消えてから、ムギが戻って来て、
またわたしに乗って来てくれた。
うん、いいよ、ムギ。とことん付き合うよ。
お互いの信頼の糸を、もっと太くしよう!

やがて、ムギは気が済んだようで、自分から降りて大きく伸びをした。

二時間、一緒に過ごせた。
夫が出張で留守で、途中で誰も帰って来なかったのが幸いした。

でも、この二時間は、ものすごく貴重な二時間だ。
ムギとわたしとで、血を通わせ合うような時間なのだ。

ムギはパトロールには行かず、車の横にいて、
なんならもう一回、って顔をしていたが、
「ムギ、ママまた夜に来るからね、必ず来るよ。約束する。
待っててくれる?」と言い置いて、
正妻のちまが待っている部屋に戻った。


ムギとじっくり一緒に居られたおかげで、
わたしの精神の均衡は保たれた。

これで明日からも生きていける。

こういう、何でもない、普通の日が、一番愛おしい。
どうか毎日、ムギに会えますように。

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コツコツと、信頼を築き上げる。

人と人でもそうだが、
信頼は、築き上げていくのに、膨大な時間が必要なのに、
崩れる時は、一瞬なのだ。

崩れてしまったら、
また一から、石を積み上げて行くしか、他に方法はない。
ショートカットできる便利な道もないし、
勝手に石を積み上げてくれる、便利な重機もない。

自分の手で、一つ一つ、一日一日、
積み上げて行くしかないのだ。

相手がムギだから、お世辞もきかない。
餌でもつられない。
真実の言葉しか信じず、約束は守らねばならない。

人間の子より、はるかに大変だ。

ムギがムギの意志で来てくれない限り、
抱きしめることが叶わないからだ。

自分の息子なら、抱きしめて泣いたり泣かせてやったりできるのに、
ムギが警戒をしていて、来てくれなければ、
わたしは触ることもできないのだ。

なんという悲しさ。

なのに、夫には不用意に大きな音を立てられて、
せっかく乗ってたムギが逃げてしまい、
わたしは怒りに満ち満ちて、頓服を飲んでばかり。

イライラして、何も手に着かないよ!



今日は昼間、出かける時、振り向くとムギが日向ぼっこしていた。
わたしは戻って、門扉の外から声をかけた。
「ムギ、ママ、夕方、暗くなってから行くね! 今から出かけるから。
夕方行くから、待っててね!」
ムギは、だまーってわたしを見つめていた。

帰って来てちまの世話をして、急いでムギの所に行く。
ムギは小屋の中にいたようだ。
わたしの足音を聞いて出て来て、
わたしが到着すると、車の横にいた。

それは、ともすれば、すぐに逃げ出せる場所である。
安心はしていないよ、という意味である。
わかってる。

今はとにかく、ムギの信頼を回復することが最大の重要事項だ。

「もう捕まえられることはない。
今までと一緒だよ。
誰も邪魔しないよ。」
これらを、また、信じてもらわなくてはならないのだ。


ムギは、甘えたくて寄って来たものの、
乗って来るのには、まだ勇気が足りなくて、
手の届かない、微妙な距離を保って、わたしを見ている。

ムギ、大丈夫。
もう捕まえない。約束する。
いつもと同じだよ。
ママに乗って、お体フキフキしよう?

ムギは小さい脳内で迷っている。

寄って来て、乗らずに、座った。
まずはおかかが食べたいとのこと。

仕方がない、そう言うなら、いつもと順序は違うけど、
おムギさまの言うようにいたします。

おかかを差し出すと、しゃくしゃく食べた。

そして、行ってしまった。

また食い逃げされて終わりか?

わたしは根気強く待った。
ムギはわたしを試している。
自分がつれない態度をしても、ママがちゃんと居てくれるかどうか。

車の前に行って、こっちをうかがっているのだ。

わたしは、物音を立てないよう、
静かにムギを、ひたすら待った。

30分弱経って、ムギが小さく鳴きながら、わたしの後ろに現れた。
ビックリしたが、そこは落ち着いて、
「ムギ、おいで。のんのして。」と、脚にいざなった。

ムギがとうとう、乗って来てくれた!
やった!

でも、油断は禁物。
大きい音を出したら、おしまい。逃げられてしまう。

わたしは、体を緊張させて、静か~に行動した。

ムギ、大丈夫だよ、いつもとおんなじね。
お体フキフキするよ。

音を出さないように、ウェットシートの箱を取り出し、
シートを抜いて、歌を歌いながらムギを拭く。
楽しい気分になるように明るく。

「ムギ、お腹ちゃんは?」というと、ムギがお腹を拭ける様に、
体勢を変えてくれた。
「ありがとうムギ~。いい子だねえ~。」

そのあとは、ブラッシングして、そーっと毛布を掛けた。
去年の手帳では、毛布すらビックリされたと書いてあったので、
「いつものムギの毛布だよ~。怖くないよ~。」

そして、やっとムギが、落ち着いた。

夫にメールを入れた。
わたしは今夜は、ムギから降りるまではずっと付き合うつもりだ。
当然、途中、夫が帰宅する。
なので、お願いメールを送った。

「今やっと、ムギが乗ってくれました。お静かなご帰還をお願い致します。」

夫は、足音は引きずっていてうるさいし、
門の開けたてや、郵便ウケのガチャガチャも激しいので、
それをされたら、せっかく勇気を出して乗ってくれたムギが、
また恐怖で逃げてしまう。

夫の帰宅が近づいて来たので、もう一回、念押しした。
「まだ乗っています、郵便物は夕方おかあさんが、だして行かれました。」

つまり、郵便受けをガチャガチャせず、ひたすらそーっと帰って来て欲しい、
というお願いだ。


夫は、脚を引きずらず、静かに帰って来てくれた。
すごいかっこよくてスマートな人が帰って来たようなムードだった。

ムギにも、これから帰って来るのはパパだよ、
でももう、ムギを捕まえないからね、大丈夫。
ママを信じてね、と耳打ちしておいた。

なので、夫が静かに帰って来てくれて、
おかげでムギは逃げ出さなかった。
夫、やればできるんじゃん!

そのあとも、ムギが自分で降りるまでは、と乗せていた。

夜20時を過ぎて、納得したのか、ムギが伸びをして降りた。

「ムギ、ママ帰るね。また夜中に来るよ。」
そう約束して、帰った。


こうやって、毎日毎日、コツコツ、
信頼を積み上げて行くしか、方法はない。

だからどうか、邪魔せず、静かにして欲しい。                                          
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頓服飲みまくり。

ムギの入院はうまく行って、
どこも悪くなくて健康体で帰って来られて、
その日は、帰って来た瞬間と、お姑さんがデイサービスから帰って来た後と、
夜中と、全部、普通に、ムギに会えている。

ムギはわたしを恨んでおらず、疑ってもおらず、
今までと同じように、甘えてくれた。
本当にお互いの信頼の絆が、太くなったのだと信じた。


でも、そうではなかった。
土曜日になり、ムギは不安定になった。
たまたま、強風が吹き荒れる天気だったのが災いしたのだが、
ムギは怖くて小屋にいられなくなった。

小屋に居たのに、何か顔をバシッってされた!と逃げ出し、
パパとママが揃っていて、二人でボクを探してる、と思い、
また捕まえられちゃう!と、疑心暗鬼になってしまった。

合計3回、会いに行ったが、全然、触れ合うことができなかった。

わたしは、ムギとうまく行っていないとダメなのだ。
何もかもがダメなのだ。
優先順位とか、色々言われても、駄目なものは仕方がない。

ちまに当たってしまうので、わたしは、頓服を飲んだ。


夕方は会えなくて帰って、頓服を飲み、
ちまに当たらないよう気をつけたのだ。

9時に、ムギ帰ってるよと夫に教えてもらって行ったが、
ムギはものすごい警戒をしていて、
退院して来た日は、あんなに甘えてのってくれたのに、
完全に疑っていて、乗ってくれない。

パパが今日は中にいる、またボクを捕まえるかも、と
ムギは思って用心して乗らないのだ。

おかかをあげたら、それだけ食べて、さっと姿をくらませた。
完全な食い逃げ。

探してももう、いない。

部屋に帰って、また頓服を飲む。
おかしくなってしまう。
壊れる。


夜中、2時過ぎに行った。

ムギは小屋に入っていてくれた。
良かった。寒いから、小屋に居てくれれば、それでもう、充分だよ。

手を入れて撫でて、「ちゅーるあげようね。寒いから出て来なくていいよ。」と
ちゅーるを用意して、小屋に差し入れてやった。

ムギはそれを舐めて、満足そうにしていたが、
そうだ、今日はまともに会えてないからシーバあげてないね、食べる?と
ムギに聞いたら、少し食べたいというので、
手で、一粒ずつ、口元に差し出した。

しばらく食べたら、出て来たので、
え、お礼に乗ってくれるんじゃ?と期待してしまったが、
ムギはそのままパトロールに出掛けて行ってしまった。



今日もまた同様に、17時に会いに行く。
昨日よりは少しマシだけれど、風が強くて寒い。

ムギは小屋に入っていてくれた。
良かった、うれしい!

座って、ムギ、ママ会いに来たよ、と言って、
手を入れて撫でたら、ムギはゴキゲンで、
くるっと上を向いて、お腹ちゃんを見せてくれた。

パトロールに行ったのだろう、体中、草の実だらけだった。

わたしが手を入れて、一つずつ取り去っていたら、
ムギが出て来た。

そして一周して、乗って来てくれたのだ。

それでもまだ、恐怖心があるようで、恐る恐る、乗って来てくれた。

わたしは、ムギを驚かせないよう、静か~に行動した。
不用意に物音を立ててはいけない。
ムギは、今、すごく過敏になっていて、ちょっとしたことで逃げてしまうのだ。

わたしの脚に乗ってくれたので、草の実を取り去って捨てた。
それで、「じゃあムギちゃん、お体フキフキしようね~。」と
いつものように声をかけた。

それくらいの時点で、夫が、ガレージに面したトイレに入った。
トイレの窓から、わたしの後ろ姿が見えるし、
もちろん声も丸聞こえだから、会っているのは一目瞭然。

なのに、
なのに、だよ?
その直後、母屋の玄関が、ガッチャーン!と大きな音を立てて開いた。
ムギはびっくりして飛び跳ねた。
「ムギ、大丈夫だよ、パパだよ。」
そう、夫がいきなり玄関から出て来たのだ。

そしてズッタラズッタラと靴を引きずりながら、郵便受けに行き、
ステンレスの郵便受けをガッチャガチャ!とかきまぜた。
ムギはわたしから飛び降りて、裏の物置の陰に隠れた。

履いてから静かに出てくればいいものを、
夫は庭で大音を立ててダンダン!とつま先を蹴って靴を履き、
門扉をガチャーン!と開けて、出て行った。

ムギは完全に逃げて、いなくなってしまった。


何でわざわざ、邪魔するの?
どうして配慮がないの。
むしろ、わざとか!と思うくらいだよ。

ムギが音に過敏になっていること、
家にパパがいると、また捕まえられるんじゃないかと不安がる事、
わからないのか。

わたしとムギが会っているのを実際に見てるんだから、
少し静かに出られないものか!

わたしは夫に抗議のメールをした。
せっかくムギに会えたのに、大きな音を立てるから逃げちゃったよ!って。

そしたら、「忙しい中、用事があるんでね。」という返事。

何かにつけて、忙しい忙しいを盾にして、
配慮も優しさもない。

せっかくムギに会えたのに、もう、ムギは戻って来ない。
夫もおそらくは、近所のスーパーに行った程度だろうから、すぐに帰って来る。
そしたら余計に、ムギはもう来ない。


手元に頓服を持っていなかったので、
わたしは寒風に吹かれながら、ただムギを呼んだ。

帰っても、まだお腹もすいてないし、ご飯も炊けてないし、
ちまに当たってしまう。

夫はやはりすぐに帰って来た。
夫が家に入るのを確認してから、多分ムギがいるだろう、
庭の角の椿の木の根元を見に行った。

ムギがちんまりと、伏せしていた。

手を伸ばして撫でると、撫でさせてくれる。
しばらく撫でていると、ぐふ~ぐふ~と言う。
甘えたいのだ。

わたしだけじゃない、ムギだってママに甘えたいんだ。
ただ、怖い思いをしたくないんだよ。

ムギ、ここだと何もしてあげられないから、ムギのお家に行こう?
ママ、待ってるよ?
待ってるからね。

そう、約束して、わたしはまた、ムギのリビングに戻り、
ムギを呼びながら、一時間、待っていた。

わたしは試されているのだ。
ママが本当に待っていてくれるかどうかを。



すっかり暗くなって、ムギは裏から、小さく鳴きながら帰って来た。

でも、まだ乗るのは怖いらしい。

座っておかかを食べた。
シーバも少し手から食べた。
そうしたら、一周して、
やっと、やっと、そーっと乗って来てくれたのだ。

もう泣きそうになった。
長かった。

退院当日が、あまりにもスムーズだったので、勘違いした。

去年は、木曜日に夫とムギを捕まえて、
土曜日に夫と一緒に迎えに行っている。

だから、二人ともが揃っていた、土日、
ムギはわたしに近づけなかったのだ。
パパ、いるし、また捕まえられるかもしれないし、って。

その後、一週間は、乗ってもすぐに降りてしまうとか、
食べたらいなくなって帰って来ないとか、
そもそも、小屋に居なくて、呼んでも帰らずとかの記述が、
一週間ぐらい続いている。
次の土日になってもまだ、ムギはパパがいるし、と警戒をしていた。

今年はたまたま、平日にわたし一人が迎えに行ったから、
良かっただけなのだ。
本心では、またパパとママが揃うと、捕まえられちゃうんじゃ?と
思って警戒しているのだ。


そんなナイーブになっているムギがいるのに、
あんな大きな音を立てられて。
せっかく勇気を出して乗ってくれてたのに、本当に怒りで震えた。

怒りのコントロールが効かず、
頓服だけが減っていく。



ところで、今日は、不思議なことがあった。

美容院でシャンプーだったのだが、帰りに100均に寄った。
そこの店内で、電話が鳴っていることに気が付いて、
出ると、息子だった。
「あら~、なあに? どうした?」
すると息子はこう言った。
「え?いや、そっちから着信あったから、掛け直したんだけど?」
もちろん、わたしはかけてない。

「あら、じゃあ、何か間違えて押しちゃったかしらね。ごめんごめん。
どう、元気になった?」
せっかくの電話だったし、去年の秋から声を聞いてもいなかったし、
会う約束が2回キャンセルになっていて会えてないので、
声を聞けたのは嬉しかった。
三階建ての100均なので、一番上の人のいないところで、
ちょっと雑談した。

まあ、なんでだかわからないけれど、声が聞けて嬉しかったよ、と
電話を切った。


わたしと息子には、ある取り決めがなされている。
通常の用事は、全部メールでする。
電話をかける場合は、どうしてもの時か、緊急時。
なので、その場合は、出るか、出られなかったら、折り返し掛ける、というもの。

お互い、電話は好きではないので、気軽にかけないよう、
本当の緊急時がわかるよう、決めてある。
これは息子が高校生の当時からだ。
なので、何かあったんだ!と思って掛けて来たのだろう。


このことを、さっき、思い返してみて、
おかしなことに気が付いた。

こんなことが、起きるはずがない、ということに、気が付いたのだ。

息子はスマホだから、不意に触った拍子に、
電話がかかっちゃう、なんてことも、あるのかもしれない。

しかし、わたしが使っているのは、
ガラホという、
二つ折りの、携帯の形をしたものなのだ。

それは、当然、二つ折りを開いて、ボタン操作をしない限り、
全く、何も、動作できない。
開かずに出来ることは、
サイドについている細長いボタンを押すことで、
時刻表示をし、マナーモードにする、
たったその二つの動作しかできない。

わたしは、携帯を、ショルダーバッグのポケットに入れていた。
当然、二つ折りにされているままだ。

発歴・着歴を見ると、
わたしから息子宛に、15:55にかけたことになっている。
これは、もう100均に居た時刻だ。
息子はすぐに折り返して来たらしく、
着歴は、15:56だ。


あり得ないことが起きたと言うことだ。

わたしは、美容室に行っていて、そこで携帯をバッグのポケットにしまった。
自分でしまった。
開いていない。

その足で100均に行って、
二つ折りにされて、バッグのポケットに入っている電話から、
息子に電話がかかった、というのだ。

どう考えても、それはありえない。

わたしは100均で携帯に触れてもいないし、
もしもどこかにぶつかったとしても、二つ折りの携帯が、
誤作動を起こして、わざわざ息子を選んで電話を掛けるはずがない。

息子とは、このガラホになってからは、
ただの一回も、電話していないのだ。
だから着歴にあってたまたまそこにかかるなんてことが、ありえないのだ。


どういうことだろう。

どうしてなんだろう。

息子の声が聞けたのは、得した感じで嬉しかったけれど、
とても不思議な、出来事だった。

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甘かった。

低気圧による、鬱症状の悪化かもしれない。

すごい調子が悪い。

ムギのことでひと段落して、夕べはムギと会えて幸せだったのに、
今日はどん底だ。

土日は、わたしはムギのところに、だいたい夕方17時くらいに行く。
それは、毎週そう。

今日も、そのつもりで着込んで支度をしていたら、
夫から写真付きのメールが来た。

「ムギ、小屋に居るんだけど、風が強くて寒くて、
自分がムギが出て来るのを待てない。」
と書いてあった。

いやいや、今からわたしが行くし。
他の時間に会ってるんでしょ?

「わたしが今から行きますよ。」と返事を返して、降りて行った。

そしたら、ムギは、小屋にいないのだ。

夫がトイレに入って覗いて来たのがわかったので、
「ムギいないじゃないの!」と聞いた。

そしたら、ムギの顔に、突風で飛んできた枯れ葉が当たって、
何かをされた!と勘違いしたムギが、
小屋を飛び出して行ってしまったというのだ。

でも、遠くには行ってないと思うよ、と言って、
夫が玄関から出て行き、庭でムギを探し始めた。

ムギの声が聞こえたので、ああ、いるんだな、とわかった。
「椿の根元にいるよ。」と夫が教えてくれたが、
ムギは、もともと、一対一でしか、会えない子なのだ。
夫がいたら、わたしのところには来るはずがない。

なのでわたしは、ああそう、と言って、
「ムギおいで~。ママ来たよ~。」と声を掛け続けた。

それでも、あまりにも来ないので、見に行くと、
庭の角の椿の木の根元に、うずくまっている。

風をよけているだけなのか、
それとも、パパとママが揃っていることが、もしかしたら怖いのか、
わからないので、必死に訴えかけた。
「ムギ、大丈夫だよ、風、怖いね。
小屋の中に入って、おかか食べようか?」

ムギは返事をするし、手を伸ばして体を撫でることも出来た。
でも頑として出て来ない。

風だけが怖いんじゃない。

昨日退院したばかりなんだもの。
本当なら、もっとナイーブなはずなのだ。

昨日、たまたま、私だけが迎えに行って私だけが会ったので、
ムギは恐怖心を抱かずに、帰って来たし、乗ってもくれた。

でも今日は、パパとママが両方居て、自分を探している。
ボク、また捕まっちゃうんじゃ?と
怖かったのではないだろうか。

だから、深追いせず、風が強くて座ってても体が揺れるので、
一旦帰った。

一時間後に、また行ってみた。
今度は小屋にはおろか、庭にもいなくなってた。

わたしは、気が変になって、
わいわい寄って来るちまに、「うるさいっ!」と怒鳴った。

ムギとうまく会えないと、駄目なのだ。
自分は何も失敗はしていないのに、
わたしが会う時間にたまたま夫が会っていたのがダメだったのだ。

他の時間にしてくれてもいいじゃないか。
早朝から起きてるんだから。

イライラが半端じゃないので、頓服を飲んだ。

ムギを見かけたらメールください、と夫にメールして
わたしは、失敗してまずくなってしまったパスタを胃に流し込んで、
オリンピックをながめるともなく見ていた。

羽生君が、金メダルを獲った。
彼が人気があるのは、
古来の日本人っぽい顔立ちに、みんな気品と知性を感じるからだ。
彼の中には古代の神がいるなあ、と思いながら見ていた。

女子の、浅田真央さんは、弥勒菩薩のような風貌が、
人をこよなく惹き付ける。
あの、仏様のような福耳。

9時に、ムギ帰ってるよ、とメールをもらったので、
降りて行った。
母屋の門を入って、「ムギちゃん」と声をかけると、
ムギは小屋から出て来て、車の横に座った。

わたしが反対側から回ると、ムギの姿が消えた。

あきらかに、警戒レベルだ。
覗いたら、車の下にいる。
「ムギ、大丈夫だよ。ママ一人だよ。おいで。」
そう言うと、ムギは出て来て、わたしの真後ろで伸びをして、
床に上がって来て、いつものように、脚に乗ろうとした、
まさにその時、突風が吹いた。

ムギはわたしを飛び越して、また車の下に隠れてしまった。

ムギ、風強くて怖いね、小屋でおかか食べよう?

そう言っても、ムギはじりじりと車の前の方に行ってしまった。
わたしも車の前に行き、ひざまづいて、
「ムギ、怖くないからおいで。ママ待ってるよ。おかか食べよう?」
と、頭を撫でて誘った。

餌で釣られる子ではないのはわかっているが、
どうしてもどうしても、ムギと触れ合いたいのだ。

ムギは来てくれた。
わたしに乗る…とみせかけて、小屋に入ったので、
「うんうん、いいよムギ、寒いから小屋にいな。おかか入れてあげる。」
わたしが器におかかを入れていたら、小屋にいればいいのに、
ムギは外に出て来てしまった。

そして風に吹かれながらおかかを食べ、
食べ終えると、すすっと、いなくなってしまった。

周辺を探したが、完全に、「食い逃げ」された。

これでは、会えたとは言えない。
全然、ムギが足りない。充電したい。

わたしはおかしくなって帰って来て、
このままだとヤバい、と思って、
しかたなく、もう一錠、頓服を飲んだ。

駄目だ。
ムギとうまくいかないと、何も手に着かないし楽しくなんてない!

このあと、また行くけれど、
出て来なくていいから、乗ってくれなくていいから、
小屋に入っていて欲しい。
寒いから。
望みはそれだけ。

ムギ、もう捕まえないから、怖がらないで…。
お願いだよ…。

                                         伽羅moon3



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